◆「プロフェッショナルの知とデジタルエンジニアリング」対談シリーズ

第5回 モノづくりの強さと市場価値が結合すれば、日本の製造業は再生する

株式会社ハーズ実験デザイン研究所 代表取締役/村田智明氏×レクサー・リサーチ/中村昌弘

村田智明氏

村田さんは1959年生まれで、鳥取県境港市のご出身である。1982年に大阪市立大学工学部応用物理学科を卒業し、三洋電機デザインセンターに入社。86年にハーズ実験デザイン研究所を設立し、プロダクトを中心にグラフィック、CI(コーポレート・アイデンティティ)、インターフェイスなどのデザインを広く手がけている。「行為のデザイン」と呼ばれるユーザ心理行動分析メソッドに基づく商品デザイン開発の指導・実践に加え、「デザイン経営ストラテジー」や「デザイン資産価値概念」「感性ビジネス」など、デザインの果たす役割を広く捉えたシステムを提唱。元エンジニアの経験を活かし、大学や企業における先端技術のデザイン可視化のサポート、プロデュースも行っている。京都造形芸術大学では、大学院にSDI(ソーシャルデザインインスティテュート)を開講し領域を超えた横断的な社会問題解決型の仕組みを作り、モノづくりを通した地域創生を研究している。 2005年には、マイクロソフト「Xbox360」のコンソールデザインを手がけ、同年4月にミラノで開催された世界最大級の国際家具見本市「ミラノサローネ」で発表したコンソーシアム・デザイン・ブランド「METAPHYS(メタフィス)」が話題を呼び、企業分野を超えてデザインや思想、ブランドの共有を図る新しいビジネスモデルとして、多数のメディアでも取り上げられている。  デザインによる地域振興にも造詣が深く、各企業のコア・コンピタンスを活かしながら、地域としてのベクトルを揃える地域型企業コンソーシアムのプロデュース、デザインにも携わっている。14年5月には『ソーシャルデザインの教科書』(生産性出版)を上梓した。  こうした活動を通じて「モノづくり」から「価値づくり」を進めている村田さんの考え方には共感する部分が非常に大きい。今回は村田さんに、プロダクトデザインにおける価値創造について、さまざまな観点からお話を伺っていきたい。

世界12社が競うデザインコンペに勝つ 対談風景その1

中村 村田さんは2005年に発売されたマイクロソフトの家庭用ゲーム機『Xbox 360』のデザインを手がけられたと聞いています。どのような経緯でデザインに携わられたのかをお聞かせ下さい。

村田 03年1月頃にマイクロソフト社からメールが一通届いたのですが、よく見てみると、メールのタイトルが「デザイン依頼」になっていて、「一度お会いしたい」と書いてありました。お恥ずかしながら、私のところにそういうメールが来るとは思っていなかったので、非常に驚きました。当時同社がXbox事業所を置いていた代田橋(東京都杉並区)のオフィスにお邪魔したところ、アメリカ本社から来ていたXbox担当のジム・スチュアート氏とドン・コイナー氏から「デザインコンペに参加してほしい」と依頼されたのです。彼らは「世界から12社が参加するコンペで採用された人が『Xbox 360』のデザインを担当することになる」と言われました。「なぜ世界コンペにするのか」と聞いたところ、『Xbox 360』はワールドワイド・モデルなので、さまざまな国の民族性や嗜好性を調査する目的もあり、誰のデザインがワールドワイドに通用するのかというシミュレーションも兼ねているとのことでした。

中村 なるほど。

村田 そうこうするうちに、世界から選抜された12社のデザインが出揃い、最終的に2社に絞られ、幸いなことに当社にも採用通知が届きました。私はそれをとても喜しく思いましたが、マイクロソフト社からの通知は予想とは大きく異なるものでした。「これからがスタートです。今まであなたに提供していたハードディスクのサイズを始めとするスペックは、すべてダミーです」というのです。

中村 そうなんですか。

村田 しかも彼らは、(コンペの試作品を)盗撮したような写真をネット上にわざとリークしていました。それが一つのメディア戦略でもあり、われわれの力量を試すためのテストでもあったわけです。そこからセキュリティの高い環境で、本当のデザインが始まりました。

中村 実際にどんな仕事をされたのですか。

村田 高性能のグラフィックボードを搭載している『Xbox 360』からは、大量の熱が出るので、その熱をどう処理するかというサーマル・ソリューション(熱対策)が重要になります。そこでアメリカ・カリフォルニア州のサンノゼに行き、シンガポールに本社を置くEMS(電子機器受託製造サービス)企業の工場で、「ソリッドワークス」を使って熱解析などを行いながら、朝から侃々諤々の議論を行いました。大変な仕事でしたが、楽しかったですね。

中村 単なるプロダクトデザインではなく、「世界中の多様なカルチャーを背景にしたデザインとは何か」という部分から入ってきたのですから、(マイクロソフト社の世界コンペは)グローバル戦略だったわけですね。

村田 はい。最終的に残った当社ともう一社が同じスペックや情報を与えられ、競争しながらデザインを行いましたが、結局は双方の「いいところ取り」をした商品ができたような印象です。当社は(筐体の)エッジが立ったデザインを行いましたが、最終的にはRの大きな競争相手のデザインとフュージョン(融合)した形になりました。

中村 なるほど。

村田 (コンペで二社に絞られ)第二期の開発が始まったときに、担当者がジム・スチュアート氏からジョナサン・ヘイズ氏に替わったのですが、彼は非常に面白いことに、試作モデルを毎回家に持って帰り、朝も帰宅後もずっと眺めていました。すると、最初は良かった私のモデルがだんだん飽きてきて、競争相手のRの大きなデザインの方がよく見えてきたりするわけです。そういう試行錯誤の中で、彼は私の基本的なデザインは守りつつも、競争相手がデザインしたRの大きな形状をディティールに採用しましたが、私はその手法に驚きました。試作モデルをずっと見続け、飽きがこないかというところまでを見極めながらデザインを決定するというこだわりが、日本の企業には欠けているような気がします。とにかくスピード、スピード、スピードで、長く売れない商品を作ってしまいがちではないかと。

「確かな主観」がモノづくりに欠けている

中村 その点については、非常に考えさせられるものがあります。私もバーチャルリアリティ(VR)技術やシミュレーション技術を開発する中で、単に生産性を向上させるとかコストが低減できるという機能的価値の提供に留まってはいけないと考えてきました。当社は、利用者がVRやシミュレーションを活用する中で、新たな発見や気付きを得ていただくことをずっと志向しています。そのためには、利用者がVRやシミュレーションの中に感覚的、主観的に入っていけるインターフェイスが必要です。利用者が何か強く感じるものがなければ気付きは生まれませんし、利用者が「これはいい」とか「こういうものがほしかった」と主観的に思っていただくことが、(客観的な評価から得られるものよりも)大きな価値の創造につながっていくのだと思います。

村田 そうですね。

中村 前回、一橋大学イノベーション研究センター長の延岡健太郎さんと対談を行ったのですが、延岡さんはご著書の中で「主観的な価値は汎用化する」と述べています。延岡さんが「顧客の解釈と意味づけによって創られる価値」と定義している「意味的価値」は「主観的な価値だからこそ、多くの顧客に共感を呼」(延岡健太郎『価値づくり経営の論理』〈日本経済新聞社〉)び、さらに「主観的な価値は、特定顧客に限定される場合があるが、汎用性が極めて高い場合も少なくない(中略)。実際にはものづくりに限らず大きな価値づくりを実現しているのは、主観的な顧客価値をもち、しかも一般に広まった商品である」(同書)と言うわけです。

村田 その「主観」は確かな経験に基づいたものであるわけですね。主観を生むのは経験であり、最近「経験価値」とか「経験経済」ということがよく言われています。要は、モノにお金を払うのではなく経験にお金を払うということで、経験を積めば積むほど自分の「引き出し」の中が豊になり、確かな主観が生まれるというわけです。

中村 もちろん客観的な価値(前掲、『価値づくり経営の論理』によれば「商品の機能の高さによって客観的に決まる機能的価値」)も大事なのですが、客観とはある意味分析的なアプローチであり、極論すれば誰にでもできる環境になってしまうのです。しかも多くの企業が、すでに客観的なアプローチをし尽くしています。

村田 その結果、少なからぬ日本企業が、コモデティな企画を立て、コモデティのための生産を行い、結局はコモデティに見放されているという悲惨な状況に陥っていますよね。

中村 まったくその通りです。

村田 それは「客観」を追求しすぎたあまり、(本来、利用者に)啓発すべき、主観性を強く持っているリーダーを、トップに立たせないような文化背景が日本企業にあるからです。それがおそらく、アップルなどとは違うところだと思います。アップルはむしろ排他的で、「主観」をベースに商品づくりを行っています。(たとえば生前のスティーブ・ジョブズのように)「主観」を唱える人物が非常に魅力的なので、(ユーザも)その人についていくという啓蒙的なアプローチが可能になるのです。その意味で今、中村さんがおっしゃった「主観」は非常に大切で、日本のモノづくりに一番欠けているところだと思います。

中村 まさしく、それが本質的な部分なのかもしれません。

村田 私は三洋電機の出身ですが、残念でならないのは、同社が結局はコモデティな会社だったということです。マスを追いかけたがために、マスに見放されたということではないかと思いますね。

日本を持続的に発展させるための社会づくり――ソーシャルデザイン

中村 そうですね。一方、村田さんが最近進めている取り組みとして「ソーシャルデザイン」があるわけですが、その「ソーシャルデザイン」という言葉を最初に発信されたのが村田さんだとお聞きしています。

村田 はい。私は大阪市の仕事をずっと委託で請け負っています。大阪市には大阪デザインセンターに加えて大阪デザイン振興プラザという施設があり、大阪府にも別途デザインセンターを設けるなど、デザインに非常に力を入れています。そういう中で、私は「アクシス(axis/軸)」と呼んでいるのですが、デザイナおよびデザインに関わる企業が向かうべき方向を示す軸もしくは羅針盤のようなものが、明確でなかったのではないかと考えました。企業の依頼を受けた通りにデザインをするのではなく、社会的な方向性の中で「ここに行くべきだ」というタスク(目的・役割)を構築できないかと思ったのです。

中村 その軸として、ソーシャルデザインというコンセプトを打ち出されたのですね。

村田 まずは「エコ・プロダクツデザインコンペ(ECO PRODUCTS DESIGN COMPETITION)」を4年間手がけ、次いで世界に約40億人いると言われている発展途上国の貧困層支援をどうするかをテーマにした「BOP(ベース・オブ・ピラミッド)セミナ」に1年、さらに「ソーシャルデザインカンファレンス」に4年関わり、合計9年にわたって大阪市のサポートを行ってきました。「エコ・プロダクツデザインコンペ」や「BOPセミナ」に携わる中で、エコやBOP、高齢者対策、地域創成、震災復興といった言葉をくくるものとして、「ソーシャルデザイン」という概念を提唱し、それをカンファレンスのタイトルに持ってきたのです。それが6年前の話です。

中村 比較的、最近の話なのですね。

村田 たった6年間ですが、書店に専門コーナーができるまでになりました。逆に私の本(『ソーシャルデザインの教科書』を生産性出版から14年5月に出版)が出るのが少々遅かったぐらいです。「グッドデザイン賞」にも新しく「ソーシャルイシュー」という社会課題解決ができているかという横串が設けられるようになりました。

「モノづくり復権」の裏に潜む危機

中村 村田さんは製造業との広い接点をお持ちで、デザインからモノづくりを見直そうという活動を行われてきたと思うのですが、その中で最近どんなことをお感じですか。

村田 モノづくりが復権してきたのではないでしょうか。実際、これまでのような悲観的な見通しが少なくなり、製造業に光が差し込み始めています。円安という要素ももちろんありますが、これまで厳しい淘汰を経て、コア・コンピタンスをきちんと持っている企業が生き残ってきたということだと思います。

中村 そうですね。コア・コンピタンスを持っている会社が今生き残っているのですよね。

村田 実際に企業にヒヤリングを行ったり、一緒に仕事をさせていただくと、そこが力を持っていることを実感します。私は(プロダクトデザインなどの)仕事をする前に、必ず相手企業にコアコンピタンス・ヒヤリングを行い、そこが他社に比べてどんな点で競争力を持っているかを理解するよう努めています。あるいは「感性価値」と言いまして、商品のバックグラウンドとして、相手企業がどんな価値を持っているのかを聞かせていただいています。そのたびに、なぜその企業が厳しい経済状況の中で生き残ったのか、納得させられるものがありますね。

中村 一方、自社が持っている価値とは何かということを、企業は絶えず考えているわけです。ところが「今の時代に合ったモノづくりの価値とは何か」を追求する中で、市場価値を生み出すためにマーケットに対する提案力を高めようとするあまり、モノづくりがおろそかになっている企業も出ています。ひいては「モノづくりはもういらない、ODM(機器開発製造受託)に任せればいい」という動きもあるわけです。要は、日本におけるものづくりを捨ててまで、市場価値の追求に走ってしまうわけですね。もちろん、こういうアプローチを全否定しているわけではありませんが、それはそれでなかなか大変だと思います。そういう中で、日本のものづくりのあり方は今後どうあるべきかをめぐって、日本の製造業が揺れ動いているのが現状ではないでしょうか。こうした点を踏まえて、村田さんが手がけるプロダクトデザインの立場からご意見をいただけないでしょうか。

村田 今、中村さんがおっしゃったのは、マーケットをにらむあまり、自社が持っていた価値創造に関わる部分、いわゆるモノづくりの原点の部分を捨ててしまうということです。それはおそらく刹那的な生き方で、自分が在籍している間だけ企業が繁栄していればいいということなのでしょう。一例を挙げれば、かつて丹後半島はちりめんの一大産地で、多数の工場や問屋がありました。そこで織物を大量生産できる織機も開発されたのですが、彼らはその織機を韓国に売ったのです。彼らはさらに、韓国に安い人件費でちりめんを生産させて日本に輸入するという形で、コアになる技術を手放していきました。当初はかなり儲かったそうですが…。

中村 瞬間的にはそうでしょうね。

村田 はい。大島紬を着て、夜な夜な宴会に興じる旦那衆が数多くいて、それが「左団扇」の語源になったそうです。ところがその結果、韓国では自分たちで改良、改造を加え、買い取った織機の性能を上回る機械を作り始めました。最初のうちは織機も輸出し、ちりめんも安く輸入できたのでかなり儲かったのですが、それも数年しか続きませんでした。結局、今、丹後半島でちりめんを作っている会社は3社しか残っていません。それと同じことなのです。現状のマーケットだけを見て、モノづくりのすべてをEMSに任せてしまうとか、OEMで済ませるような体質に変わってしまった。これをどうするかが、日本のモノづくりの課題だと思います。

中村 市場価値を追求する必要があるのはもちろんですが、結局、「市場価値だけ」を追求してしまうという動きになりがちですね。一方、先の丹後ちりめんの話でも、先祖代々の伝統を頑なに守りながらモノづくりを行っているところもあるのでしょう。ところが案外、自らの強みをおさえたうえで伝統を守っているわけでもなかったりするのです。

村田 結局、「「丹後ちりめんでなければならない」のか、「ちりめん風であればどこのものでもいい」のかという違いが、地域ブランディングがきちんとできるかの大きな分かれ目になります。そのポイントになるものが「感性価値(生活者の感性に働きかけ、感動や共感を得ることで顕在化する価値)」であり、ブランド化の可否はここにかかっているのです。

中村 なるほど。

村田 たとえば、アスクルに注文したコピー用紙やどこにでもあるホチキス、クリップに誰もブランド価値を求めないように、コモデティ化してしまった結果、ブランド価値が与えられない商品がある一方、お米のようにブランド化が有効な商品もあります。お米のように「この味でなければならない」という差異、違いをこれから日本企業は構築していかないと、丹後ちりめんの二の舞になってしまうでしょう。

中村 製造業の場合、大切なのは、モノづくりの強さと市場価値が結合することだと思います。ひとくちにブランドと言っても多種多様ですが、モノづくりや技術に加え、歴史、文化といった個々の企業が持つ背景を、市場価値につないでいくことで初めて強いブランドが構築できるのです。さらに「このブランドでなければできない」とか「本物の丹後ちりめんはここしかない」という差別化要素があれば、単なる市場価値ではなく「太い市場価値」を生み出すことができるのではないかと思います。

村田 そう思いますね。

中村 ところが、なかなかその部分が追求されないまま、「市場価値の追求」や「伝統の墨守」が断片的に行われているのが現状です。また、自社の強みは確かにあっても、それが正しく理解されていません。そういう自身の認識、世間の認識の弱さが日本の問題点ではないでしょうか。

日本の強み・弱みとは何か 対談風景2

村田 その一番の原点は、人間ではないかと考えています。結局、人にどれだけお金をかけるのかという基本的な部分が欠如していて、従業員を簡単に削減し、教育にもお金をかけていません。そのため日本では頭脳流出が激しく、優秀な人材がどんどんアメリカに流れています。そのアメリカでは逆に「頭脳化」を図っていて、デ・ファクト・スタンダードさえ押さえてしまえば、生産はどこの国でもいいという戦略を採っている。もし日本にその「頭脳」を理解し、然るべき人を育てる仕組みがあれば、おそらく日本は素材産業を中心にして世界をリードする存在になれると思うのです。

中村 そうですね。

村田 最近の例ではバイオコークス(木くずから茶かすまで、あらゆる植物性廃棄物から作られる固形燃料。石炭コークスの代替燃料として使用される)も素晴らしい発明ですし、紙そのものを発色させて表示デバイスに利用するペーパーディスプレイ技術のように、日本企業は素材分野で革新的な試みを数多く行っています。生産手段でハイテク化を行えば、アジア諸国も真似ができませんから、日本が市場を席巻することになるでしょう。

中村 組織の中で積み上げられてきた経験やノウハウなどに支えられた技術は「積み重ね技術」や「すり合わせ技術」と言われていますが、そこから他国で真似のできない製品・技術ができています。これは強いですね。素材分野もそうですが、複雑で部品点数が多い製品、たとえばコピー機は日本でしか作れません。

村田 作れませんね。

中村 モジュールを買ってきて組み合わせているのではないので、模倣できないのです。その意味で、少なくとも現行の機構が必要とされる限り、日本製のコピー機の強さは盤石です。そういう強みを持っているのも、過去のトラックレコード(運用実績)があり、そこから汲み上げてきた経験に絶対的な強さがあるからです。それをどう活かしていくかで、今後の可能性が拓けるわけですが、その部分を追いかけようという意識や認識、行動がともなっていないことが問題です。しかも、世に類いまれな、他社には真似のできないものと言っても、あくまで機能的価値にとどまっていて、意味的価値もしくは村田さんのおっしゃる感性価値につながっていません。そこをうまくつなぐことが、今からの日本のモノづくりの可能性を広げるための重要なアプローチなのではないかと思います。

村田 結局、ハイテクの新商品を作り上げても、先を見ていないので、商品を市場に投入したとたんにしぼんでいくのですね。ずっと先の未来をイメージし、そこから少し先の未来にある答えを見つけていく「バックキャスティング」というアプローチが必要です。30年、50年先のデ・ファクト・スタンダートは一体どうなっているのかというところからバックキャスティングして数年先を見たときに、これからのモノづくりではIoT(モノのインターネット)が普及し、モノがネットとつながることでさまざまな情報をフィードバックできるようになるとします。そうなったときに、ネットにつながるあらゆるモノが生活の中に入り込むことで、自分たちの未来をどう変えていくかを予測し、それに関わる法的な部分を検討し、知財を権利化する作業を、今アメリカがどんどん進めています。ところが日本はそういうところに疎いために、まだ実際に作られてもいない仮想的な段階で、すべてアメリカに権利化で先行されているのです。その意味でバーチャルが非常に重要になっていると思います。まだできていないものが、できたらどうなるかを予測し、権利化していく作業が日本には欠けていますね。

中村 そうですね。

村田 かつてITS(高度道路交通システム/Intelligent Transportation Systems)の世界標準化をめぐり、ヨーロッパの「PROMETHEUS(プロメテウス)計画」、アメリカの「DRIVE(ドライブ)」計画、日本の「ARTS(アーツ)計画」が激しい競争を繰り広げました。その時点で日本はカーナビの所有率が世界一高く、新車にカーナビが標準品でついていたほどで、日本が一番有利だと言われていたのです。ところがアメリカが同計画で、詳細は省きますが自動運転中の事故を解決する手段を特許化してしまいました。だから日本は、どんなに優れたカーナビを開発しようと、そこにはもう手を出せなくなった。

中村 なるほど。

村田 つまり、アメリカに首根っこを押さえられてしまい、今まで行ってきたナビの開発が吹き飛んでしまったのです。その代わり、アメリカは「プロメテウス勢を抑えるために一緒に組もう」と言ってきた。そこで日本とアメリカが組み、新しい高度道路交通システムの国際標準化競争に勝ったのです。

中村 非常に身につまされる事例ですね。日本、アメリカ、ドイツにもそれぞれ強みと弱みがあるわけですが、ビジョンやコンセプトの部分が日本の最も弱いところです。

村田 そうなんですよ。

中村 実はビジョンやコンセプトこそ、価値が発生する場所なのです。これからのモノづくりはIoTの時代に移っていくわけですが、「その中で生まれる新たな価値とは何か」を模索するのではなく、今から自分たちが価値を創り上げ、もしくは定義していくという活動が必要だと思います。実際、そういう戦いが始まりつつあり、アメリカではインダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)が動き始めていて、ドイツでもインダストリー4.0を推進しているわけです。

村田 そうですね。

中村 それらは単なるITを使った活動ではないと、私は考えています。たとえばインダストリー4.0には、スマートマシンという自律動作するロボットが、相互通信を行いながら適切なロボットに仕事を渡し、自律分散の工場をつくっていこうというコンセプトがあります。なぜ、ドイツがそういうコンセプトの下で動いているかというと、スイスの時計業界がムーブメント(キャリバー)メーカや針メーカ、ダイヤル(文字盤)メーカなどによる水平分業で成り立っているように、業界内にそれぞれ役割が決まったメーカがいて、各社が作るコンポーネントを組み立てて製品ができあがるというのがヨーロッパの産業構造だからです。ヨーロッパの自動車業界も同様で、たとえばダイムラーとBMWの共通部品を作っている、もしくは、ダイムラーのGクラスとBMWのXシリーズを作っている会社があるわけです。

村田 ギルド的な発想かもしれませんね。

中村 おっしゃる通りで、そもそもそういうカルチャーや社会構造の中で、水平分業を行うロボットを標準化し連携させていこうというのは、きわめて自然かつ必然的な流れだと思います。かたやアメリカはある意味で「モザイク」的な社会で、商品・サービスの提供者とエンドユーザをいかに強くつなぐかという、インテグレーション(統合)で戦ってきた背景があります。だとすれば、インテグレーションを高めるための新たなビジネスモデルもしくは価値を追求することが、アメリカ企業における必然な流れだということになるでしょう。一方、日本にも独自の強さや文化背景がありますが、それらを把握せずに、ドイツやアメリカのアプローチを狙おうとしても、おそらく簡単にはいきません。IoTを始めとする新しい技術が整ってきたときに、自分たちがほんらい持っているものや文化背景などをもとに、イノベーションを行い、(従来の延長ではなく)コンセプトの面からいかに違う形に変わっていくかというアプローチを考えないと、これから生まれる新たな価値は日本以外の国に取られてしまいます。それどころか、ほんらい日本でなければ生み出せない価値も、生まれてこないということになるのではないでしょうか。

村田 やはり、未来を見ていく力がないのでしょう。さらには、未来を見るための人材に投資していくということもできていないと思います。私は日本なら、既存の3D積層造形(AM)などをはるかに超える「超RP(ラピッド・プロトタイピング)」を実現できると考えているのです。今6種類ぐらいの素材をインジェクション(射出)して硬化させるという方式のRPが出てきていますが、今後、金属に限らず、バイオ材料などの異素材も含めた造形ができるようになる可能性があります。ということを考えると、ここから10年後に出てくるRPはどんなものになっていくのかと想像するだけでも面白いですよね。この辺にいかに人材を投入し、いかに技術を発展させていくかが、日本の1つの課題になってくるのではないでしょうか。

数値化が難しい「感性価値」

中村 日本の強みや特徴は何かという話に戻ると、日本の産業構造は水平分業ではなく、どちらかと言えば、メーカとサプライヤの関係にしても垂直統合です。また、先の「すり合わせ技術」や「積み重ね技術」という言葉にも見える通り、商品を徹底的に作り込んでいくところに強みがありました。ところがそこに、単にIoTなどの技術を導入すればいいかと言うと、おそらくそうではありません。新しい技術を使うことによって、日本のモノづくりが持つ文化背景の中で、強みをどう活かしていくのかという視点でイノベーションを考えていかないと、IoTやインダストリー4.0といった波に翻弄されるだけで終わるでしょう。個々の企業のレベルで成功例は出るかもしれませんが、それはあくまで「点」の話であり、広く日本の強みを活かすことには結びつきません。

村田 私もそう思います。

中村 1つの仮説として、従来の日本のモノづくりの強みがすり合わせにあるとするなら、IoTやデジタルエンジニアリングを活用することで、今まで見える範囲でしかできなかったすり合わせを、目に見えないところにまで拡張することが考えられます。たとえば現場のカイゼンが日本のモノづくりにおける1つの基盤だとすれば、そこにITを活用することで、国内の他工場でも、地球の裏側にある子会社でもカイゼン活動が可能になるといったアプローチもあり得ます。一方、カイゼンを始めとする現場活動の中でさまざまな知見を得て、技能や経験を積み重ねてきたことも日本のモノづくりの大きな強みです。ところが残念なことに、その技能や経験が個人の中にとどまり、属人的なものになってしまっていることが大きな課題です。そこでIoTもしくはデジタルエンジニアリングを活用し、自分しかできなかったことを他の人もできるようにするなどの形で、技能・経験の適用範囲や活用の幅を広げることを模索するのが、日本が取るべき1つの方向なのでしょう。その意味で、IoTなりデジタルエンジニアリングは、日本の製造業にイノベーションをもたらし、新しい価値を生む基盤になっていくのではないかと思います。

村田 なるほど。

中村 そこで考えていかなければならないのは、それをいかに市場価値、とくに意味的価値につないでいくかということです。それにはプロダクトデザインやソーシャルデザインなどの価値を生み出す活動と、日本のモノづくりが培ってきた力を結合していくことが大切で、そこにIoTなりデジタルエンジニアリングを活用していく余地があるわけです。その際、この対談のテーマでもある「プロフェッショナルの知」をどうやって活かしていくのかが大事になってくると思うのですが、村田さんのご意見をぜひお聞かせ下さい。

村田 これからは、数値化できない事柄が非常に重要になっていくと思います。経済産業省では08年度から3年間にわたり「感性価値創造イニシアティブ」という取り組みを行いました。その際、商品が持つ感性価値を背景的感性価値(背景に物語がある)、思想感性価値(文学・美学・哲学的要素を持っている)、技術感性価値(感性に訴える独自技術がある)、創造感性価値(新しい提案、発想の転換がある)、啓発感性価値(自分や社会を変えるメッセージがある)、感覚感性価値(五感に訴えるメッセージがある)の6つに分類した「感性価値ヘキサゴングラフ」が作成されています。(これらの指標のように、漠然とは)わかっているものの、数値化が難しいために、経済原理の中になかなか組み入れることができない価値が数多くあると思うのです。

中村 なるほど。

村田 ところが、たとえば以前は計算することができなかったCO2の排出権が数値化されて経済原理の中に組み込まれた結果、排出権を利用したCO2の削減活動ができるようになりました。こうしたことが非常に重要で、これまで数値化できなかったことが、数値化されることによってお金の流れが生まれ、マーケットの中に入っていくのです。われわれが今、最もやらなければいけないのはこういうことだと思います。

中村 そうですね。

村田 とくに今、感性工学や感性ビジネスが脚光を浴びつつありますが、皆がブランディングと言いながらも、うまく価値づくりができていません。というのも(感性はなかなか)指標にならないからです。だから中村さんもおそらく、モノに意味づけを行うことで、そこに数値化できるような仕組みを作ることを手がけていこうと考えているのでしょう。逆にお聞きしたいのですが、その意味づけをどう行っていったらいいのでしょうか。

対談風景3

中村 意味づけについては、マーケット・プル型(市場誘導型もしくはユーザ中心型)のプロダクトデザイナという存在が不可欠な一方、商品を提供する側がその意味を十分に理解し、プッシュできなければなりません。今は村田さんのような先進的なプロダクトデザイナが「意味」を抽出することをサポートしている立場で、それは非常に重要な役割ですが、その反面、モノの作り手側がパッシブ(受け身)になっていて、言われたものを作るところから抜け出せていないような気がします。さらに言えば、モノの作り手側が持っている真の可能性もしくは潜在的な可能性はもっとあるはずです。それを十分発揮していくためには、プルではなく、内面に沸き立つもの、自分たちがアウトプットしたいもの、アウトプットすべきものを明確にし、積極的にプッシュしていくということが、モノの作り手側の活動としてあってほしいのです。そのためには、彼らが意味的価値、すなわち「自分たちの力をこう使えば、顧客の解釈と意味づけによって、こういう価値が創られる」ということを理解できないといけません。つまり、モノの作り手である自分たちの価値を、自分たちが理解し評価できなければならないということになります。

村田 それと、価値軸が違う人に、そこをどうやって翻訳して伝えるかですね。何か良い方法はあるのでしょうか。

中村 そこが大きな課題です。それについて今、明快な答えがあるわけではないのですが、彼らが自分たちの価値を評価するための基準となる指標、もしくは何らかの声が必要だと思います。評価方法としては、彼らが持っている要素技術と何らかの形で連携し、計算を行って数値化できるようにする。もしくは試作品をバーチャルで組み立ててみて、仮に自分たちのアウトプットとしてこんなものができたという場合、それをどう評価するのかという声を直接得ることができたら、彼らの意識は変わると思うのです。要は、市場に出て行けということです。今市場に出て行かずに素材や製造という立場に留まっている以上、自分たちが持っている価値は理解できません。

村田 フィードバックができていませんからね。

中村 そうです。(市場に)入るしかありません。もちろんフィジカル(物理的)に入るのがベストですが、それにも限界がありますから、そういう部分でIoTの力を借りるのも1つの方法だと思います。

村田 そうですね。IoTを活用して(感性的価値や意味的価値の)フィードバックを得るというシステムは、ありそうに見えて、デ・ファクト・スタンダードがまだありません。その辺の可能性はどうですか?

中村 その辺は、技術的にはもちろんですが、あるいはビジネスモデル化によって実現することかもしれません。たとえばクラウドファンディングがそうですよね。私は、クラウドファンディングとは、独自の技術や強みを持ち、商品やサービス、ビジネスモデルを提案するプレーヤーがそこでバーチャルな価値を示し、パトロンやサポーターからの声を直接得る活動だと思います。単にお金を集めるためだけでなく、プレーヤーが(クラウドファンディングを)自分たちの価値を確認する場として捉えるなら、そこでその価値をお金に換算する直接的な評価が行われることになります。

村田 クラウドファンディングは金融商品であり、詐欺的行為も増えていますから、金融庁の指示で規制が厳しくなっています。あるケースでは、今の技術ではまったく存在しないロボットをあるかのように装い、YouTubeなどを通してアニメーションムービーを配信しています。それを見た世界中の人たちが、「こういうものができたらいいね」と思うので、資金が何億円も集まっているわけです。実際に商品の開発に入っていますが、本当に開発できるかどうかはわかりません。クラウドファンディングにはこういう賭け事のような部分も出てきているわけですが、日本人はそういうことが基本的に嫌いです。

コモデティ化一辺倒では日本に未来はない

村田 海外メーカの戦略は、何か1つのことをよしとすれば、そこに徹底的にエネルギーをつぎ込み、排他的に進んでいくというものです。対して、日本メーカは周りでやっていることを慎重に見極めながら、同じような路線で進んでいきます。だから崩れるときは総崩れになるわけですが、やはり考え方が島国的なのでしょう。

中村 そういう特性があるのでしょうね。

村田 でも、これでは永遠に勝てないと思いますよ。ひところ「禅の経営」と言われたソニーでさえ、あのような状態で、スティーブ・ジョブズが禅を好んでいたということもありますが、今では「禅の経営」と言えばアップルがその代表格になってしまいました。日本のモノづくりにおける考え方のメインの部分は禅の思想の流れを汲んでおり、ある少数の人に対して啓発的な提案をすることでブランド価値を高めるというやり方も、アップルに取られてしまいました。そこでコモデティに走ってしまったのでしょう。

中村 それが大きな間違いです。コモデティではなく、徹底的に禅を極めるべきでした。

村田 そこが残念ですね。

中村 禅の先には何かがあるはずなのです。

村田 だから、感性なのですよ。たとえばハーレー・ダビッドソンの利益はホンダの総利益とほぼ同じです。ホンダはバイクも四輪も作っていて、会社の規模としてはとても比較にならないのですが、両社の利益はほぼ同額。これが日本の大きな問題で、何か歯車が狂ったとたんに大転覆を起こしてしまうわけです。

中村 ホンダはアメリカに上陸したとき、ハーレーを狙って大型車を作り、失敗しました。ところが、本来売るつもりはなく、ホンダアメリカのスタッフが自分たちの足代わりに使っていたスーパーカブが評判になり、爆発的に売れたのです。商売はやってみないとわかりません。

村田 だから、なおさらコモデティに走るところがありますよね。

中村 問題はそこなのです。やってみないとわからない部分が間違いなくありますから、作りながら価値を見出すというアプローチを取るべきでしょう。たしかに今、目に見えているものは皆が知っていますから、独創性や差別化といった新たな価値を生むのは難しい。でも先にお話ししたスーパーカブの例のように、やってみて初めて見えてくるものがあるわけです。トップダウンでありながら、そこで見えてくることからボトムアップをかけて、新しい価値を「創発」するための活動を、「創発経営」と言いますが、経営トップと現場の連携・対話は、日本人が得意なことの1つであるはずなのに、そこに行かずにコモデティに走ってしまっているのは問題です。日本人が持っている特性や、これまで日本人が積み上げてきた力を徹底的にすり合わせていくと、その先に何か違うものが見えてくると思います。それを具体的にどう進めていくかが問題ですね。

村田 たとえば今、日本の家電が売れている唯一の理由は「エコ替え」需要です。今使っているポットの電気代が年間数万円で、この7980円のポットにすれば年間の電気代が半分になるなら、今のポットを捨ててでも新しいポットを買えば元が取れるというのが「エコ替え」です。日本の家電製品は、(環境性能については)世界の中でもトップランナーで、しかも「エコ替え」という需要があるために、たとえばLED照明に投資してもその元が取れるので、そういうものが今売れています。車もそうです、今まで排出ガスを垂れ流していた従来車種からプリウスに替えるだけでガソリンも節約できる。今、日本で流行っているものをよくみてみると、その多くが「エコ替え」につながっています。

中村 なるほど。

村田 導入リスクが低いということと、「エコ替え」自体が環境保全につながるというのが購入動機になっているのですね。もう1つ、IoTなどとは別の方向で、日本人の手業(てわざ)や日本人が作る次世代伝統工芸が今、世界から注目を浴びています。ヨーロッパで言えばマイスター、日本では伝統工芸士や人間国宝と呼ばれるような人たちの価値がどんどん上がっているのです。彼らが作った商品の値段が下がらないため、投資目的として海外の人たちが買っていて、伝統工芸士や人間国宝が作った商品が日本橋三越あたりに出ると、即完売。真似ができないということが1つのポイントです。

中村 真似ができないというのは非常に大きいですよね。

村田 ですから、それをヒントにして、生産手段の開発を通じて、いかに真似のできないハイテク化を進めるかというアプローチが1つ考えられます。そこでキーになるのは、どんな素材産業をこれから推進していくのか、それによってどんな未来が見えてくるのかということからバックキャスティングを行い、それがデ・ファクト・スタンダードになるような流れを作っていくことです。

中村 そのバックキャスティングを仕掛ける起点を担う役割を、どういう立場の人たちが担っていくのでしょうか。

村田 そこには知財が発生しますから、アメリカは悪名高いサブマリン特許などの手法を取ってでも知的財産権をおさえてきたのです。日本はそこが非常に弱いですから、私は商品開発をする側と法律家が一緒になって取り組むべきだと思います。

中村 その通りですね。

村田 先日、大阪府のDSP(デザインサポートプロジェクト)コンペを開催したのですが、デザイナたちが考えたものを知財化し、そこにクラウドファンディングもからめて商品化を実現するという動きが出てきました。そもそも多くの日本企業では、商品化する前の技術や意匠を知財化しようとしないのです。商品になるかどうかわからないものに、知財関連の予算はつけられないというハードルがあるからです。しかも、日本は知財関連の費用が高く、特許を出願する場合、1件につき2、30万円はかかります。ところが中国ではそれが1万円、韓国では企業規模に応じて7、8千円から。毎年更新する必要がありますが、中国や韓国では費用が安いので、なんでもかんでも知財を取得しているわけですね。そういう面でも日本は出遅れています。1つは、法律家の皆さんには悪いのですが、これは既得権益であり、若い法律家たちはそれを危険だとさえ思っているのです。実際、「自分たちの利益にはなるのだろうけれど、これでは世界との戦いに敗れてしまう、今実現していないものに対しても、知財化を進めていく必要がある」と言っているわけです。

中村 なるほど。

村田 日本人は生真面目なせいか、先のカーナビの例にしても、実現したものに対して知財を取得しようとします。しかもマーケットを詳細に検証し、それがお金になるかどうかを見極めようとするので判断が非常に遅れるのです。特許については、日本はもちろんヨーロッパもアメリカも先願主義なので、考えた時点で申請しないと競争に敗れてしまいます。ここに、バックキャストができない日本人のカベがあるのではないでしょうか。

「知識統合型の生産組織」に革新せよ

中村 ここで、会社の中での仕事の進め方についてお話すると、20世紀初頭になり、テイラーの科学的管理法がかつての工場制手工業を変革して以来、分業が百年以上続いてきました。その中で、日本企業の社内における仕事の進め方も分業型になり、多くの人が、それぞれ与えられた役割の中で仕事を進めるという形になっています。それはいわば、手続き型の仕事の進め方であり、(個人がそれぞれの役割の中で担う)その機能以上のことはできません。日本企業はそういう組織体制の下でスケーラビリティを発揮し、ある意味でQCDを追いかけていたのです。でも私は、こういう分業型の組織体制には限界があると思います。

対談風景4

村田 なるほど。

中村 その意味で、先に話題になった「意味づけ」を行うためには、結論から言うと、分業型の仕事の進め方から集約的な仕事の進め方にもう一度戻すことが必要です。ただし、現場にはやることが山積しているので、集約後の人や組織がその作業量をカバーできるような環境を構築していかなければなりません。その鍵がバーチャルということになるのでしょう。今まで手が届く範囲でしかやれなかったことを、バーチャル化によって、スコープを広げるのです。そうすることで、今まで分業化していたものを集約化し、仕事のやり方を大きく変えないと、新しい価値を生み出していけないのではないかと思います。

村田 そうですね。

中村 そのために業務プロセスや組織を変えていくのです。その中で新たなモノづくりの価値を見出したら、(意味づけを通じて)市場価値に結びつけていく。そういうことは集約された組織でなければ難しいと思います。そこで、デジタルエンジニアリングやIoTといった技術を足廻りとして使いながら、集中的に価値づくりを行っていくのです。それは市場価値の創造とモノづくりの強みを極めることを、一緒に行うことと同義です。

村田 それは、水平分業とはまた違いますね。人間の集約…。垂直統合でもないですね。

中村 スキルや知識を統合し、ワンオペレーションを行っていくということです。

村田 私が2015年9月に出版する「行為のデザイン思考法」という本(村田智明著、CCCメディアハウス)の冒頭に、「プロジェクトの後戻りリスク」について記しました。その典型的なケースの1つはバトンタッチ型と言われるもので、中村さんが先ほどおっしゃった手続き型の仕事の流れに似ています。実際、調査、企画、デザイン、設計と仕事が引き継がれ、最後に販売に至るときに、いざ開けてみると、初めの企画から相当のずれがあるという状況がよくあるのです。

中村 私も同じような絵を描いていますよ(笑)。 村田 そうですか(笑)。この仕事の流れが、あるときに崩れてしまうのです。当然、「これは違う」ということに気付けば、前のステップに戻るのですが、この後戻りのリスクが、原価に非常に影響します。それではまずいから、同書のここにも、中村さんが提唱されている「SIM(シミュレーション統合生産)」を利用しなさいと書いておきました。

中村 そうなんですか。

村田 逆に私は、「円卓型」という仕事のスタイルを提案していて、これが私のデザインの基本的なやり方となっています。設計と生産の間は専門家が手がけるわけですが、ポイントポイントに円卓会議を招集し、ベンダやデザイナ、マーケタ、金融機関などさまざまな人たちが一堂に会して情報共有を図りながら、後戻りの無い仕事を進めるというイメージです。

中村 なるほど。いずれにしても、(人も組織も)集約の方向にあることは間違いないですね。私は12年7月に出版した『日本製造業を建て直す「超ものづくり経営」』(日経BP社)に、1人の人がすべての分野のスペシャリストになる「超人化」を実現することが必要だと書きました。「超人」とは言っても、スーパーマンのような存在ではなく、あくまで普通の次元の人であり、大衆に甘んじず、自らの確立した意志を持って行動できる人、自分で価値観を創造して生きる人のことを指しています。そういう人たちが固定概念や常識を「超えて」提案し、技術者としてのベストプラクティスを現出させることを「超人化」と呼んでいるわけです。

村田 いま中村さんがおっしゃったようなことを、私も自著「行為のデザイン」(CCCメディアハウス)の「企業内の開発スピードを上げるワークショップ」と題する導入部分で、ナレッジの統合として触れています。中村さんがおっしゃっていることは、システムの領域の話だと思われがちですが、結局はナレッジの統合だと私は考えています。

中村 私も同じ考えです。先に日本とアメリカ、ドイツを比較しましたが、日本の強みは「すり合わせ」であり、日本の文化は垂直統合だとすれば、徹底的にナレッジを統合すべきです。そういう考え方を踏まえて、最近「知識統合型の生産組織」というキーワードを打ち出しました。比較論になりますが、ドイツの産業構造は水平分業型でオペレーションが弱いため、インダストリー4.0のアプローチには標準化によってオペレーションを支援するという面があります。一方アメリカは、インテグレーションが強いもののオペレーションが弱いため、IoTを推進することで弱い面を補完しようとしているわけです。日本はオペレーションが強く、コンセプトやインテグレーションが弱いという特徴があり、その部分を、IoTを利用して強化することが必然の選択だと私は思うのです。

村田 そうですね。

中村 だとすると、方向としては垂直統合、強みとしては「すり合わせ」を徹底的に極めながら、バラバラになったナレッジをIoTで統合し、ワンオペレーションという集約的な体制の中で新たな道を切り拓く。そういう行動につながるような組織や体制に変えていくことが必要だと思います。こうした中で、意味的価値を直接発生させ、市場価値を現前に創り出すプロダクトデザインの力は非常に重要ですね。

価値づくりの鍵となる「背景感性」

村田 そうですね。実際にモノづくりに入る前に、先のナレッジの統合という部分が重要で、私はプロダクトデザインの前にワークショップを通じて、対象企業に必ず「感性価値ヒヤリング」を行っています。過去から現在に至るまでの業績についてお聞きし、ヒト・モノ・カネの流れを俯瞰し、さらに経営者から、同社が現在抱えている課題について尋ねます。また感性については、①直感に訴える何らかの「感覚感性」があるか、②間接的な情報となる「背景感性」があるか。たとえば先代社長が人間国宝であるとか、会社の歴史について話を聞いています。

中村 そうなんですか。

村田 ほかにも、③技術が魅力となる「技術感性」があるか、④ハッとするようなアイデアやマイナスをプラスに転じるような逆転発想で見せる「創造感性」があるか、⑤文化となり得るような感性(文化感性)を発信しているか、⑥CSR(企業の社会的責任)などの社会性のある「啓発感性」があるか、これら6つの感性について聞き、そのうえでタスクを設定するのです。たとえば、このワークショップの包括的な目的をどこに持っていくか、具体的に何をやることが目的なのか、ワークショップにそれをどう具現化していくか、具現化のためのメンバと体制をどう構築するかということを決めていき、予算策定やメンバの選定、ステークホルダーの設定なども含めてワークショップ実施の準備をしていくわけです。

中村 なるほど。

村田 なかでも私が最も大切にしているものが背景感性(narrative value)です。たとえば私たちは、まだ会ったことがない人に対して「外見がこうだからこんな人だろうと」いう憶測を抱きがちですが、実際に会ってみるとその人が紳士であることがわかったり、会話、受賞歴やメディアへの露出などさまざまな情報が入ってくればくるほど、その人の価値が向上し、それがそのまま背景感性になるわけです。とくに外部から入ってくる情報によって、モノや人自体の価値を引き上げていくことを背景感性と言っています。

中村 (背景感性の力は)非常に強いですね。

村田 企業を訪問していると、古びたショーケースに商品が陳列されていて、「わが社の商品は…」という説明を聞くことがよくありますが、「もっとほかの話はありませんか」と言って会社のエピソードなどを聞き出していくと、背景感性につながる話題が意外と見つかります。ところが灯台もと暗しで、当の企業の方は「そんな話をしても商品は売れませんから」と謙遜することが少なくありません。そこで私も「御社は和菓子屋さんですから、この言葉はのれんになります。絶対に入れましょう」というようにアドバイスすることが多々ありますね。このように、外部の人間が背景感性を評価することは非常に大切だと思います。自分たちでは見えなくなっている部分を評価していくわけですから。

中村 自分たちの価値は見えないですね、製造業ではとくに…。

村田 そうですね。「当社はこういう品質管理体制のもとに、皿を手びねりではなく、型で毎時数百枚というスピードで量産しています。これは、よそにはできない強みです」とおっしゃる方もいますが、こういうことは何の売りにもなりません。そういうことよりは、「こんな職人が汗水を流し、ろくろを回して一個一個作っています」というほうが価値に結びつきます。「その部分を語ってもあまり価値にはならない。逆に、ここを言えばそれが価値になる」という見極めを行うには、マーケタや相応の経験価値のある第三者が見て評価するしかありません。

対談風景5

中村 そうですか。日本の製造業では、これまでQCD(品質、価格、納期)が1つの大命題でした。そこで日本の製造業は徹底的にQCDの向上に努力してきたのですが、ある瞬間から「もはやQCDではない」と言われるようになったのです。ところが今でも製造業では多くの企業がQCDから目が離れず、要は、QCDが憲法のようになっていて、それ以外の価値を理解できないでいるのです。そこで今日話題になった感性価値を始め、従来とは異なる見方でモノづくりを革新していかなければならないと思いますが、その一方で、感性という言葉には難しい面もありますよね。結局は市場価値と感性をどのように結びつけていくのかという話になりますが、一般論で言えば、言葉としては、市場と感性には少し距離があると思うのです。そこをどう結びつけていったらいいのかという問題があります。

村田 たとえば日本の得意なアニメーションを例に挙げれば、青山剛昌(あおやま・ごうしょう)の『名探偵コナン』や水木しげるの『ゲゲゲの鬼太郎』、『ドラえもん』や『機動戦士ガンダム』もそうですが、そういうサブカルチャーには取るに足らないキャラクタもある一方、メディアを通じてエポック・メイキングとなったキャラクタには非常に高いロイヤリティがついています。ミッキー・マウスに払うロイヤリティは高額ですが、そのキャラクタを入れることで商品が売れる。こういうものは文化感性と呼ばれていて、エポックや流行を作り出すものから、わびさびのような伝統文化、様式美、サブカルチャーまで、すべて文化感性としてくくられます。

中村 そうなんですか。

村田こうしたものが価値を創っているのですが、中国などでよく作られているようなまがい物もありますよね。そういうものは、中国人でさえ買わないそうです。ということは、そこにはすでに相当の付加価値がついているということですね。

中村 ちなみに、文化感性という視点での価値と、それを実現できるスキルの問題があると思いますが、極端な話、サブカルチャーの場合、下手な絵のほうがよかったりする場合もありますよね。

村田 そうそう、ゆるキャラのようなものですね。

中村 はい。その辺が難しいところで、「ふなっしー」を真似したキャラクタを作れるかといったら、なかなかできません。

村田 そうですね、へたうまも感性表現の一つ。本来の機能を果たさなくても感性が優先されれば許される時代です。マーケットを睨んで機能的価値と感性的価値を見極めて使い分ける目が求められると思います。ちなみに、砂の中から顔が現れる「砂丘くん」という鳥取のゆるキャラがあるんです。ネットで怖いゆるキャラとして話題になり、公開されている画像も限定されています。公開禁止という形で話題を作ってしまうことで、背景感性が生じているとも言えます。

日本のモノづくり力を「技術感性」と「創造感性」に活かす 対談風景6

中村 感性価値にはいろいろな種類がありますが、モノづくりの力が活きる価値には、たとえばどんなものがあるのでしょうか。

村田 直接的なもので言えば、技術感性と創造感性があります。順序が前後しますが、創造感性の分野は日本が非常に得意としているものです。たとえばトヨタの『プリウス』のハイブリッドエンジンは、日本が得意とするものの真骨頂でしょう。日本人は一から何かを作ることは苦手ですが、何かを改良して新しいものを作ることは得意です。同様に、インドから伝来したカレーをアレンジし、インド人も驚くようなおいしい料理に仕立てています。フランス料理にしても、日本風にアレンジされたフレンチがミシュランの格付けをかなり取っています。

中村 そうですね。

村田 日本というフィルターを通すと、外から入ってきたものがよりグレードアップしてアウトプットされることが多いのですが、日本はそういう機能を持ったファクトリーと言ってもいいのかもしれません。これが創造感性と呼ばれるものの典型で、たとえばマイナスをプラスにする、今までにないことをやる、異分野からの発想を取り入れる、異分野同士のハイブリッドを作る、新しいルールを作る、新しいビジネスを作る、などの要素が挙げられます。

中村 1つの要素では駄目でも、複数の要素を入れると新しい価値を作ることができるわけですね。

村田 日本人はインプットがないと駄目なんです。

中村 なるほど。「こういう技術を考えなさい」と言っても駄目ですが、「こういう技術とこういう技術があるから、何かやってみなさい」と言うと、これまでとは違うものができるということですね。それも1つのやり方だと思います。

村田 日本人は民族的に課題解決型なのです。課題がないとゼロから発想できないかもしれませんが、課題があると必死に取り組んでしまうのが日本人の特質で、そこに日本再生の答えが1つあると、私は思います。

中村 今のお話には非常に共感するものがありますね。

村田 加えて、非常に組織力があり、垂直統合、水平分業をうまく組み合わせて仕事をしています。ナレッジの統合などを通じて組織力をさらに高めていけば、もっとよくなるのではないですか。

中村 そうですね。

村田 それともう1つは技術感性ですが、これは今経産省が推進しているロボット、ナノテク、バイオあたりに大きな可能性がありそうです。たとえば以前、プラスチック製小型精密部品で有名な名古屋の樹研工業さんを訪ねたのですが、同社では顕微鏡でしか見えないような超小型の樹脂製歯車などを作っています。(眼鏡を外して手に取って)これは私がデザインしたベータチタン製の眼鏡フレームなのですが、ここのヒンジ(蝶番)の中に埋め込めるような超小型のマイクロダンパーを作りたいと思い、同社に協力を仰いだのです。マイクロダンパーの作用で、眼鏡を出したらつる(テンプル)が自然にスーッと開くアイデアなのですが、どこに引き合いを出しても、そんな超小型のダンパーはありませんでした。

中村 そういう、これまでにない機構や機能を持った商品を作ろうとするときに、モノづくりの技術力が活きますね。

村田 これから感性の時代になっていく中で、「感性に訴える独自技術」である技術感性はますます重要になります。たとえばBMWに装備された「iDrive」システムでは、ナビゲーションを始めとするさまざまな機能に「iDriveコントローラー」で簡単にアクセスできますが、彼らは操作部分を見なくても機器を操作できる「直感的インターフェイス」を作ろうとしているわけです。

中村 なるほど。

村田 人間は、常に対象物や環境とのインタラクション(相互関係)の中で生きていますから、そこから受けるフィードバックに対して、よりわかりやすい感覚を求めています。そうなると先ほどのダンパーも、扉の蝶番につけるものなどのように、ある程度の大きさならいいとしても、眼鏡のつるを開くような超小型の部品になると、「よりわかりやすい感覚」を実現するのは、並大抵の技術力ではとても無理です。ところが、そこにナノテクの技術を応用すれば、そういうことがどんどん可能になっていく。先日、東京大学名誉教授、帝京平成大学教授の木内学先生のお話を聞く機会がありましたが、これから世の中は軽薄短小に動いていくとおっしゃっていました。こうした中で「軽薄短小のソリューション」を確立できれば、それが日本の特色ある産業になると思います。

中村 非常に可能性を感じますね。

村田 ナノテクやロボットだけでなく、CMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)と呼ばれる表面処理技術についても、日本は世界のトップを走っています。

中村 そういうところから、新たな日本の価値が生み出されるわけですね。

村田 要は、どのようにして創造感性や技術感性を引き出すかが重要だと思うのですが、その1つの答えが、先ほど話題になったナレッジの統合です。私はSIMがシミュレーションの中に組み込まれ、かつ課題を現場にフィードバックする仕組みが必要だと思います。先の議論でも述べた通り、課題がないと日本人は(イノベーションや価値づくりが)できませんが、課題があると確実に解決策を考えて実行します。ですから、どのタイミングでどういう人を集め、どのようにして現場に課題をフィードバックできるか、という点がクリアできれば、かなり変わるのではないでしょうか。

中村 そうですね。(企業それぞれに)抱えている問題がいろいろありますが、そういうことは、実はフェイス・トゥ・フェイス、オン・サイト(その場)であっても吸収・集約できません。そもそもコンテクストを共有していないので、言葉でもわからないのです。したがって、現場に課題をフィードバックするなら、トラックレコードや実際の現場を共有することから始める必要があります。

村田 なるほど。

中村 われわれが説いている「バーチャル」とは、単なる「仮想」ではありません。サイバー空間で実質的に同等の機能を持たせた本物という意味です。物理的ではなく電子的にではあるものの、すべてを集約させたバーチャル空間から真の理解や、インタラクション、コラボレーションが始まるような仕組みを、我々は作っていきたいと考えており、その基盤になるものがSIMなのです。

ソリューションの明確なイメージを絵に描けるか

村田 そこで一番重要なことは、そういう場に参加している人たち、あるいはSIMなどを利用している人たちが、いかに自分の頭の中で創造力を働かせ、それぞれが置かれている状況を思い浮かべることができるかということです。

中村 はい、そのとおりです。

村田 シミュレーションですから、数字的には(計算の結果が)出てきます。でもそれ以上に、その状況が感覚的に目に浮かぶようにすることが大事です。そこで私はワークショップを行う手順の1つとして、「解決策の図解」と称し、ソリューションを絵に描いてみるという作業を実践しています。たとえば「製造ラインに新しい機械を導入すれば、こういうものを作ることが可能になるので、今回の企画に合うのではないか」とか「従来とはこう変わる」ということを、1度絵に落とし込むのです。自分が考えていることと、他の人が思っていることは異なるかもしれませんからね。

中村 そうなんです。まったく違いますよね。

村田 実際に、言葉ではわかっていたつもりでも、まったく違っていたりします。実はこういうことがナレッジもしくは感性の統合において最も重要で、皆が言葉で話してうんうんと頷いても、結局誰もわかっていないということが往々にしてあるのです。私の場合も、今お話したような「解決策の図解」という作業をやるようになってから、ワークショップがうまくいき始めたという経緯があります。

中村 でも、絵に描くという能力は、ハードルが高いものかもしれません。

村田 文字情報をアイコン化する作業ということなんですね。

中村 いとへんの「絵」ではなく「画」。スケッチすることではなく「概念を表す」ということで、そういう能力が求められているのだと思います。逆に、描くことによって自分の理解や認識を確認できるということは、自分の中でもインタラクションが起きているということにもなります。

村田 非常に弁の立つ人が百万言を尽くして話したことを、絵に描かせてみたら、とんでもなく内容に乏しかったということがありますね。

中村 描けないということは、ものごとの本質を理解できていないということだと思います。

村田 そうですね。もう1つ重要なのは、描いたものを統合し取捨選択することです。日本企業は、営業がこう言っている、上司がこう言っている、お客さんがこう言っているということを、全部取り入れてしまいがちで、その結果、たとえば家電製品にあまりにも多くの機能を盛り込みすぎて、失敗してしまうことがよくあります。でもよく考えてみてほしいのですが、たとえばiPhoneではテレビが見られないように、アップルではスマートフォンの機能面について、切るべきところは切っているのです。

中村 なるほど。

対談風景7

村田 そういう、プライオリティをきちんと設定したうえでの「正しい引き算」ができていないと思います。たとえば、「このソリューションを商品に入れ込めますか」という担当者の質問に対して、「むやみやたらにソリューションを採用すると、メインコンセプトがぼやけるかもしれない」というやり取りが、先のバトンタッチ・リレー、すなわち分業による手続き型の仕事の流れでは、非常にやりにくいですね。仮に、私が1から10までサポートすれば企業側は楽かもしれませんが、プロジェクトはまずうまくいかないでしょう。ですから私の関与は全体の1割程度におさえて、クライアント企業の従業員にほとんどの作業を行っています。そうすれば、彼らの間に「自分たちの手でやっている」という意識が芽生え、自らプロジェクトを推進するようになりますから、全員が味方になってくれて誰も反対しません。私は最後のデザインだけを手がけるという方法を取っています。

中村 こうした活動をぜひ広く普及させ、日本の価値づくりを推進いただければと思います。今日はどうもありがとうございました。

村田 ありがとうございました。

取材・構成 ジャーナリスト加賀谷貢樹

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