◆「プロフェッショナルの知とデジタルエンジニアリング」対談シリーズ

第4回 「価値づくり」の突破口はモノづくりにこそある

一橋大学イノベーション研究センター長 延岡健太郎氏×レクサー・リサーチ/中村昌弘

延岡健太郎氏

延岡さんは広島の出身で、1981年に大阪大学工学部精密工学科を卒業し、マツダに入社、同社で商品戦略を担当したのち、88年に米国マサチューセッツ工科大学(MIT)で経営学修士(MBA)を取得し、93年に同校でPh.D.(経営学博士)を取得。その後、神戸大学経済経営研究所の助教授、教授を歴任。2008年に一橋大学イノベーション研究センター教授、12 年同センター長に就任し、現在に至る。近著に『価値づくり経営の論理』(日本経済新聞社)がある。延岡さんはこれまで、製造業における価値づくりについて数多くの提言を行ってこられた。日本のモノづくりは「価値づくり」に貢献できていない、機能的な価値だけではもはや競争に勝つことはできないという視点から、日本の製造業に警鐘を鳴らしている。延岡さんとともに、「今からのモノづくり」および「プロフェッショナルの知とデジタルエンジニアリング」をテーマに議論を進めていく。

価値づくりのために、モノづくりをどう活用するか 対談風景その1

中村延岡さんはMITに在学中、「リーン生産方式」という言葉が生み出された現場に居合わせたとお聞きしています。

延岡当時、MITのビジネススクールに車好きが(私を含めて)3人いて、その1人がジョン・クラフチックという天才的な人物でした。彼が世界の100近い工場を回って生産性を比較し、在庫が少なくジャスト・イン・タイムで、かつプル生産方式であるトヨタ生産方式(TPS)が最も優れていると結論づけたのです。MITのキャンパスがあるケンブリッジの中華料理屋で、TPSのように効率的な生産方式にどんな名前をつけようかという話になったのですが、たまたまテーブルの上に豚肉の料理が出ていました。そこで彼が「リーン(lean/贅肉の取れた)生産方式という名前にしようと思う」と提案し、われわれは「ダイエットだ、それはいい」といって笑った思い出があります。

中村そうなんですか。

延岡当時は80年代中盤でしたが、日本企業がまだ、日本流のモノづくりだけで競争力を維持していた良い時代でした。私もMITにいて非常に居心地が良く、日本人というだけで歓迎されました。「リーン生産方式」(が優れた生産方式として世界的に認められたことも)も、日本にとっては非常に良かったと思います。

中村そうですね。

延岡ところが1990年代中盤から、日本のエレクトロニクス産業が一気に競争力を失いました。薄型の液晶テレビや太陽電池モジュールなどで、日本企業が素晴らしい商品を開発しても、すぐに値崩れしてコモディティ化するというように、価値づくりができなくなったのです。そういう時代が、今に至るまでもう20年も続いています。今日はせっかく中村さんと一緒ですから、日本の製造業の課題である価値づくり、なかでも価値づくりにおいて製造、モノづくりがいかに重要かという話をしていきたいと思います。

中村よろしくお願いします。

延岡テレビもそうですが、商品開発だけによる差別化には限界があり、モノづくりを活かした価値づくりを行っていかなければ差別化は難しいというのが私の立場です。もっと長期的な話をすると、ミケランジェロの彫刻のような芸術作品を始め、陶芸品や家具、建築にしても、本当に素晴らしい商品は、設計開発も製造も一緒になって(価値づくりが)行われています。安藤忠雄さんの建築にしても、あの打放コンクリートという建物の作り方を含めたものが価値なのです。

中村そうですね。

延岡ところが産業革命を期に大量生産が始まって以来、商品づくりにおけるさまざまなプロセスや作業が無理やり分業化されてしまいました。いわば、本当に価値づくりができる人が、すべてにわたって価値を考える商品づくりを行うことができなくなったので、役割分担が起きたのです。ところが最近この分業の弊害が大きくなっていて、中村さんも手がけられているデジタルエンジニアリングなどを利用することで(商品開発と製造が)再統合される時代が訪れようとしていると、私はずっと主張しています。たとえば、先日「一橋ビジネスレビュー」の2015年春号で「デザインエンジニアリング」の特集を行い、アップルやダイソンなどを例に挙げ、デザインとエンジニアリングにおける再統合の動きを取り上げています。

中村なるほど。

延岡もう1つ、分業による問題点の解決ですが、設計と製造の再統合については、トヨタ生産方式も含めて、日本企業が中心となって比較的早く取り組みました。たとえば製造効率の向上やコスト低減、デザイン・フォー・マニュファクチャリング(製造性考慮設計)、すなわち作りやすさを意識した設計にすることで、問題を解決しようとしたのです。

中村いわゆるDFMですね。

延岡はい。主に製造効率を向上させるために、日本企業はとくにその辺をうまく調整して力をつけました。ところが最近、商品開発だけでは価値づくりができない時代になったので、効率化のためだけでなく、製造も設計も一緒になって価値づくりを行うという方向で、(設計と製造の再統合を)もう一回行う必要性が生じていると思います。

中村そうですね。

延岡かつて無理やり分業化されたものを再統合するうえで、私は技術が一番大事だと考えています。陳腐な例で言うと、ワープロの登場によってタイプのオペレータが要らなくなったように、3DCADの普及で、CADオペレータもかなり減りました。そのように、新しい技術が生まれると、今まで分業しなければならなかったことが、ツールを武器にして統合的に行えるようになり、その結果、本当に価値の高い商品が生み出されるようになるわけです。

対談風景その2

中村なるほど。

延岡その最もわかりやすい例がアップルだと思います。アップルの競争力を構成する要素として、OSなどももちろん重要ですが、私は少なくとも同社の競争力の半分以上が、非常に美しく、触っていても心地良いアルミ合金削り出しの筐体である「ユニボディ」にあると思います。アップルはこれを新機種が出るたびに数千万台レベルで製作していますが、本当にデザインが良いものを作ろうと思うと、プレスではほとんど不可能で。彫刻家がプレスで芸術品を作らないのと同様に、高精度の切削を行わなければ本当に美しい筐体は作れません。アップルがそういう作業を、数千万台というレベルで行っていることに改めて驚かされます。

中村そうですね。

延岡ユニボディを考案したのはジョナサン・アイブというデザイナですが、中国にあるホンハイ(台湾・鴻海科技集団/FOXCONN)の製造拠点に何カ月も入り浸り、製造方法の検討も含めてアルミ合金を削り出す作業を行っています。デザイナがモノづくりの部分にまで深く関与した結果、アップルは大きな価値を生み出したわけですが、本来は日本企業こそが、モノづくりの強さを価値に結びつけることを手がけなければならなかったという意味で、非常に示唆的です。

中村なるほど。

延岡日本はモノづくりに大きな強みを持っているのですから、価値づくりのために、モノづくりをどう活用するのかをよく考えるべきだと思います。

中村私は、商品とその使い手であるユーザとの関係の中に、大きな価値が存在していると思います。当社は今年で設立22年目を迎えましたが、20年前からコアテクノロジの1つとしてVR(仮想現実)という技術を追いかけてきました。それはなぜかと言うと、仮想化すること自体が目的ではなく、仮想化することによって、ユーザと設計物との距離が縮まるからです。バーチャル空間の中で、設計物が単に3次元になって見えるだけでなく、ユーザが自分で設計したものを、等身大の感覚で扱うことを可能にするためのVRであるべきだと言いつつ、ずっとその技術を追いかけてきたのです。

延岡そうなんですか。

中村そこで取り組んだのが、新たなユーザインターフェイスの構築です。人間の思考にそのまま対応し、直感的に操作ができる技術が必要だと考え、20年ぐらい前から研究開発を行っています。たとえば「3次元ドラッグ&ドロップ」という、当社が特許を取得した技術がありますが、これはバーチャルの3次元空間でモノをドラッグして動かすというものです。

延岡そういうところに、大きなイノベーションがあるわけですね。

中村はい。私が特許を出願するまでは、バーチャルの3次元の空間でモノを動かそうとするとき、CAD上ではX軸→Y軸→Z軸の順に物体を移動させて回転させるというオペ―レーションを取らなければなりませんでした。でもこれは人間の感覚から言うと非常に不自然で、ユーザにとってあまりにも不親切です。ユーザは画面上の「ここからここ」に物体を持って行きたいのだから、ドラッグ&ドロップがいいに決まっているのに、そういう技術が存在しなかったのです。

延岡技術開発のハードルがかなり高かったのでしょうね。

中村3次元空間とは言っても、画面上に見えているのは2次元映像ですから、2次元情報から、物体を移動させたい場所の3次元座標値を算出する仕組みが要るのです。すなわち、2次元空間から3次元空間に座標データを逆変換する仕組みが必要で、当社はその仕組みを特許化したわけです。そのアプローチは、ユーザの感覚と目的と意思に対応し、人間の操作と同じオペレーションで動かせること。ユーザとのそういう接点を、いかに作り上げるかが重要だと私は考えています。

延岡今、商品開発で流行っているのが「デザインシンキング(デザイン思考)」なのですが、それは、商品で何ができるかではなく、ユーザインターフェイスを重視する考え方です。私は最近「デザイン価値」を研究する中で、見た目の美しさや、触ってみての心地よさ、持ってみての使いやすさといった事柄すべてがユーザインターフェイスであり、それらが同時に商品の価値であるという話をしています。とはいえ、デザインシンキングを実践するには、単に机上でこんなことができる、あんなことができるという設計だけでは話にならず、ユーザが商品のインターフェイスをきちんと評価できるところまで技術を高めなければなりません。まさに中村さんがいま手がけているような、製造の部分に加えて、モノだけではなくプロセスも含めたすべてをプロトタイピングできるような技術が、将来的には出てこなければならないと思います。

中村そうですね。

延岡そうなってくると、分業のやり方自体がガラッと変わるのです。価値を本当に理解し、価値を創る能力のある人が、すべてを統合的に見るということが、然るべきツールさえあれば可能になります。昔はレオナルド・ダ・ヴィンチのような天才でなければできなかったようなことが、ツールをうまく使えば、凡人でもできるようになるわけです。にもかかわらず、今もなお「ツールが設計と製造の間のコミュニケーションを促進する」という程度の認識で止まっている人が多いのですが、われわれが目指すべき次のステップは、本当の意味での(設計と製造の)統合です。

「主観的な価値は汎用化する」 対談風景その3

延岡私は「価値は不可分である」という言い方をよくしています。商品の価値は商品全体で成り立つものですから、下手に分業してしまったら、商品に価値をうまく作り込むことができなくなります。ですから中村さんも「商品企画からサプライチェーンまで一気通貫」だとよくおっしゃっているように、将来的にはそこまでを狙われているのではないですか。

中村そうですね。当社では自動車メーカも支援させていただいていますが、製品設計の段階で、工程設計やライン設計までをコンカレント(同時並行的)にやってしまおうという動きがあります。ところが現場を見ていると、コンカレントとはとても言えません。製品設計の担当者の横に工程設計の担当者がいて、キャッチボールしながらやっている。キャッチボールではなく一方通行である場合もあります。だから究極的には、製品設計と工程設計を、同じ人ができるようにする仕組みが要ると思っています。

延岡そこまで行くことが大事ですね。コミュニケーションや調整をしている限りは、本当の意味での統合、一体化は不可能です。しかも価値づくりについては、その部分を、関係部署が本当に一緒になって取り組むとか、もしくは力量のある1人の人が手がけなければ難しいですよね。日本企業は部門を越えた協業はアメリカ企業よりも得意だと、ずっと言われていました。実際、デザイン・フォー・マニュファクチャリングの辺りまでは、トヨタを筆頭に、日本企業における設計と製造との関係は本当にうまくいっていました。

中村おっしゃる通りです。

延岡たとえばトヨタでは、そこが非常にうまくいっていて、製造畑の人が設計のことを、コミュニケーションもあまり必要ないぐらいまで理解しています。ところが日本企業が得意なのは、効率を上げるというときに問題が起こらないように調整をすることであって、(設計と製造が)一緒になって価値づくりに取り組むとなると、アップルやダイソンなどの方が強いというのが現状です。

中村そうですね。

延岡たぶん、協力的に仲良くやるから日本型の調整がうまくいくのですが、アップルのデザイナのジョナサン・アイブなどが工場に乗り込んでいるところを見ていると、日本企業は逆に、遠慮しすぎではないかとさえ思ってしまいます。トヨタの場合は、生産技術が非常に強いので、設計に対して遠慮せずにものを言い、非常に作りやすい設計にしていますが。

中村トヨタはもともと製技が強い会社ですよね。

延岡はい。ところが普通の日本企業は遠慮がちで、効率を高めることまではできても、(設計と製造が)本当に一体化し、大きな価値のある商品を、従来とはまったく違う方法で作り上げるようなところまでは、なかなかいかないというのが現状です。

中村最近感じていることなのですが、日本にはTQM(トータル・クオリティ・マネジメント)という1つの金科玉条があり、ある意味で日本は、そこまで徹底してモノづくりをやってきた国なのです。TQMが重要であることは間違いないですが、逆に「すべてTQMで良い」と視野が狭くなっているのではないかと感じます。今後日本の製造業はTQMから、価値づくりのための商品企画や設計へと進んでいかなければならないのですが、これまで日本企業がTQMを必死になって追いかけてきたことや、それによって蓄積された現場力さえ、ある意味では弊害の1つになっているのではないかという気もします。その辺はどうお考えですか。

延岡日本人は真面目ですから、コストを下げるとか品質を上げるというように、目標がはっきりしている場合は、非常に一生懸命に取り組むので、TQM的な考え方が合うのでしょう。ところが、またアップルの話をすると、このiPhone 5sのアルミを削り出して製造した筐体の製造コストは3000円だと、一説には言うのです(愛用のiPhone を手に)。

中村加工費を含めてですか。

延岡そうです。ですから、プラスチック製のiPhone 5cの筐体はその何分の一ということになるでしょう。でも、筐体だけに3000円のコストをかけることがはたして妥当なのかを判断するということになると、日本的なマネジメントのやり方だけでは非常に難しい。やはり、ある意味で「出る杭」のような人物が、「これは絶対に価値があるんだ」と、強いリーダーシップを持って推進しないと、そういうことは不可能です。(そういう人がいないから)日本のモノづくりの強さが、商品の価値を高めるところまでいかないのではないですか。

中村まさに、ご著書の『価値づくり経営の論理』にある「組織能力(他の企業よりも、安定的に確率高く優れた商品を開発・導入できる底力)」というところですね。その辺りが、日本のモノづくりにおける1つのカベや課題になっているのではないかと思います。私も、非常に共感を持って同書を読ませていただきましたが、なかでも「主観的な価値は汎用化する」という言葉が、私の心の琴線に非常に触れました。

延岡そうですか。

中村なぜかと言うと、私自身、ずっとそれに似たようなことを手がけてきたからです。私はもともと、価値を作り出すものは「客観」ではないと考えてきました。先ほどVRの話をしましたが、3次元化のソリューション提案を通じて、ユーザにどんな価値を感じていただけるかということを、ずっと試行錯誤していたのです。それはある意味、アップル的な気持ち良さにも通じるのかもしれませんが、いかにユーザの思考とシンクロナイズドしながら、機械がソフトウェアで動くのかが非常に重要だと思うのです。実際に自分がそれを気持ち良いと思っているし、お客様もそれに反応してくださるわけですよ。

延岡なるほど。

中村先に申し上げた「3次元ドラッグ&ドロップ」の例で言うと、開発当時はそういうものが製造の世界にはありませんでしたが、ニッチなお客様、すなわちアーリー・アダプターのお客様はいらっしゃいました。たとえば顧客先の生産技術の担当者が「ライン設計やレイアウト設計はどうするのか」あるいは「CAD作業は結構手間がかかる」、「3次元CADでなかなか使えるものがない」などと、思い悩んでいることがあるわけです。そうしたときに、私は「当社の生産ラインのシミュレータソフトなら、工程設計ができる生産技術の担当者が自分で作業が可能」だという、自分の思いが通じる人と出会いました。きわめて主観的な話ではありますが、私自身「これだ」と思うところがあり、それをきっかけに同社に徹底的に入り込んだのです。

延岡どうやって入り込んだのですか。

中村プロトタイプの仮想工程設計ソフトウェアを汎用商品にする前に、同社内で「無償でいいから使って下さい」とお願いし、徹底的にブラッシュアップを重ねました。もともと機能商品ではありませんから、最初はプロトタイプを客観的に見て、それが良いかどうか誰も判断することができませんでした。ところが「これはいい」、「こういうものがほしかった」というお客様の主観的な反応から、結果的にじわじわと広がっていったのです。

延岡そうですか。

対談風景その4

中村その意味で、延岡さんのご著書にある「主観的な価値観の汎用化」にも通じるアプローチを取っていたのかもしれません。私はけっして自社の技術が優れているとか、そういうことを言うつもりはありませんが、われわれはもともと世の中の常識の範疇から外れたことを手がけていたので、そういう技術や商品を広げていくには「主観的な価値観の汎用化」がポイントだということを、ご著書を読み、改めて感じた次第です。

延岡今おっしゃっていただいたことは、私が著書で述べたことの中でもかなり高度な部分です。たとえばアップルの製品がなぜ売れたのかと言うと、「気持ちいいから」とか「ストレスがないから」という主観的な理由が主ですが、中村さんが手がけているソフトウェアのようなBtoBの生産財では、普通はそういう要素があまり重視されません。そのため「生産財における『意味的価値(顧客の解釈と意味づけによって創られる価値)』とは何ですか?」と聞かれることが多いのです。

中村なるほど。

延岡ほんらいは生産財であるからこそ「本当に使いやすい」とか「こういうものがほしかった」という意味的価値が大切なのですが、「生産財だから機能やスペックが大切だ」といまだに思っている人が少なくありません。ところが、従業員が毎日使うソフトウェアが本当に使いやすければ、作業効率が向上し、コスト低減にも効果を発揮します。その結果、意味的価値が経済的な価値に結びつく場合が多くなるのです。

中村そうですね。じつは、今お話しした活動の前に、BtoCで同じことを試みたのですが、結果的に失敗しました。

延岡どんなことをやられたのですか。

中村ネット上のバーチャル空間で参加者を募り、「3次元ドラッグ&ドロップで一緒に何かを作りましょう」とコラボレーションを行うサービスを立ち上げたのです。ところが参加者が「これは面白い」とか「新しい」、「気持ちいい」と感じてくれても、お金を払ってくれる人が誰もいません。最初は、コア技術を展開するならBtoCがいいのではないかと考えたのですが、なかなかうまくいかなかったのです。そこでBtoBに切り替え、生産工程のレイアウトに応用してみたところ、それなりにヒットしたということです。

延岡結局、人間の本能はみな同じですから、人の心の本当に奥深いところに存在するニーズは普遍的なのです。逆に顧客の表面的なニーズにばかり接していると、「こんなものがほしい」「あんなものがほしい」というバラバラな要望に振り回されるだけで、普遍的なニーズにはとてもたどり着きません。だから本当に顧客の中に深く入り込み、「これは使いやすいね」といった反応をダイレクトに得るほうが、「主観的な価値観の汎用化」に結びつきやすいと思います。

中村そうですね。私は延岡さんのご著書から気付きを得て、自分なりにそう解釈したわけですが、「主観的な価値観の汎用化」がブレイクスルーのポイントだという理解が、あまりないのではないでしょうか。私のやり方が正しかったかどうかはさておき、そういうアプローチを取ることができないことが、1つの問題だと思います。

延岡とくに大企業でですね。もっと正確に言えば、「客観的な価値(商品の機能の高さによって客観的に決まる機能的価値)」と「主観的な価値(意味的価値)」の総合が本当の価値なのです。なかでも主観的な価値のプラス部分がどれだけあるかということが重要ですが、大企業では客観的な価値しか評価されないことがほとんどです。主観的な価値がオーソライズされないので、主観的な価値の高い商品がなかなか商品化されません。にもかかわらず日本人は真面目で無理やり押し切ろうともしないので、なかなか突破口がないのが現実です。

真似されない価値を生む「組織能力」をどうマネジメントするのか

中村延岡さんはご著書で「組織能力のマネジメントは難しい」と述べていますが、その通りだと思います。日本のモノづくり企業はこれからどうしていけばいいのでしょうか。組織能力のマネジメントという方法論なのか、それとも人の意識の問題なのか…。

延岡最終的には企業のトップや上層部が(組織能力のマネジメントを)理解しないと駄目なのですが、その前に何が必要かと言えば、ミドルマネージャが小さな成功体験を積み重ねていくことしかないと思います。

中村そうですね。これまで日本のモノづくりはミドルが支えてきた部分が大きいと思うのですが、そのミドルの役割や力が劇的に低下していることが大きな問題です。成果主義の影響も大きいと思うのですが、現場力、現場力とは言っても、ミドルが何も見ないまま、結局、現場に丸投げをしている状態です。

延岡だから最初の話に戻るのですが、日本の製造業の中でモノづくりの地位が低下し、短絡的に「製造よりも商品開発、商品企画だ。モノづくりは昔ほど重要ではない」ということになってしまっています。そうなるとミドルマネジメントの力量もモチベーションも失われてしまいますし、実際に人も減っています。

中村そうですね。

対談風景その5

延岡それでも日本企業はいろいろな意味で、モノづくり現場がうまくやれば強いのですから、本当に価値づくりを行っていくなら、モノづくりとは元来、価値を創るためのものであり、そのために現場やミドルマネジメントの力やモチベーションをいかに高めていくかが死活問題であることを再認識すべきです。にもかかわらず、先ほどから話しているように、日本企業はアップルのiPhoneについて「筐体だけに3000円のコストをかけることがはたして妥当か」と思考停止している状態で、なかなかトップが「モノづくりでこそ価値を創っていくのだ」という認識を持てません。ですから、たとえ小さなことでも、現場の課長クラスを始めとするミドルマネジメントが「モノの作り方だけでこれだけ商品力が向上した」という成功体験を積み重ねていくことが非常に大事です。

中村延岡さんが『価値づくり経営の論理』に書かれているように「モノづくりを徹底しても、価値づくりに結びつかないのであれば、モノづくりに関して力を抜いた方がよいと考える企業が見られる」というのは問題ですね。

延岡商品開発において機能やスペックを追っても過当競争になり、どれだけあがいても勝ち残るのは難しいということを、誰もがわかっているはずです。モノづくりの部分は、商品のように簡単にはテアダウン(比較対象の商品を分解調査すること。リバースエンジニアリング)できません。外からは見えないところでやっていますから、モノづくりを価値づくり活かすことがきちんとできれば、商品スペックほど簡単には真似されず、本当の強みになっていくはずなのです。日本企業は、モノづくりの地位の低下にどこかで早くストップをかけて、「モノづくりこそが商品の価値を生み出す」という文化を取り戻す必要があります。

中村実際、「モノづくりは重要ではない」、むしろ「モノづくりでやっていても勝てないから外部に投げてしまおう」、「ODM(相手先ブランドによる設計製造)でやってしまおう」という風潮がかなりあるのを感じますね。

延岡いまだに日本企業は、海外生産やアウトソーシング、ODMでいくべきか、自社で内製すべきかという二極分化の状態です。ところがキーエンスのように本当に成功している企業は、ファブレスとは言いながらも、生産技術はすべて自社がきちんとおさえています。アップルも年間1兆円近い設備投資を行っていますが、ファナックのロボットを自社で大量に購入し、FOXCONNなどのEMSメーカに「この通りに使いなさい」と指示して、付加価値の低い部分の作業だけを任せている。アウトソーシングを行うにしても、本当に大事な部分は自分たちがコントロールするのが正解だと思います。

中村そうですね。

延岡ところが、「どうせ外に出すなら、手離れが良くなければもったいない」と考える日本企業がいまだに多いようですが、そうなると日本の強みがまったく活かされません。その一方で、すべてを自社で作るのがいいかと言うと、それも疑問です。たとえば付加価値を生んでいない手作業の部分を、外部に委託することは悪くないでしょう。

中村手前味噌になりますが、そこに縦串、横串をいかに刺すかが勝負だと思います。ODMにしても内製にしても、基本的には現場のことが本当にわかっているのかが問われる一方、QCDの話にもつながるかもしれませんが、モノを作るための生産システムをしっかりと運営していくための方法論を確立しなければなりません。その1つの手法がエンジニアリングチェーン・マネジメント(ECM)であり、それが、われわれのできることだと思っています。場合によっては今後IoT(モノのインターネット)を活用し、(生産シミュレータなどのツールに)さまざまな機器のテータを取り入れていくことになるかもしれません。生産シミュレーション等を活用し、「この製品はこのように作れば成功を担保できます」というモデルを、国内および海外の製造拠点、場合によってはODM先に構築し、実行部分もマネジメントできる仕組みがあれば、自社でも国外でもODMでも同じ環境が実現可能です。それができることで初めて、1本筋が通ると思いますね。

延岡なるほど。

中村今まではそこを人が手がけてきたのです。ところが海外の子会社でも、日本から製技の担当者が現場に行って立ち上げを行い、仕事が済んで帰ってきたらそこでおしまい。そうではなくて、何らかの形で現場と常につながる仕組みを構築する必要があります。

延岡そこをつなげてマネジメントをする際、1つ注文があるとすれば、(商品づくり)全体における自分たちの仕事の価値がわかる仕組みが必要だということです。差別化できる価値を創ろうと思うと、どこかに自社の工場でしかできないような(技術的・ノウハウ的に)難しい部分が要るからです。ECMで商品企画から生産準備の段階までを全部シミュレーションできるなら、「(この部分の)コストはこれだけ高くなっても、こうすればこれだけの価値が生まれる」とか、あるいは「こういうやり方をしたらどうなるのか」という、戦略の違いもある程度評価することができるようになるわけです。(この一連の対談の中に「3D一気通貫モノづくり」の話題も出ていますが)、価値づくりも合わせた一気通貫のマネジメントが必要ですね。

中村そうですね。

延岡すべてが簡単になるところから価値は生まれません。だからどこかで、難しくはあっても、本当に価値を生む部分を作らなければいけないのです。そういうものを商品づくりに取り込んでいくことで、全体としてどういうシステムやモデルになっていくのかというところまでをきちんと評価できるといいですね。

中村主観的な価値、すなわち意味的価値を含めてですよね。客観的な価値の部分で言うと、原価方式のようなことはやれるのですが、それでは差別化になりません。自社の固有技術がもたらす意味的価値を、何らかの形でモデリングして価値づくりに載せる仕組みが必要です。当社では、生産シミュレーション技術を活用することにより、「あるべき生産モデル」を作り込む「SIM(Simulation Integrated Manufacturing)」を提唱していますが、製品のエンジニアリングチェーンの中で、「これとこれが、意味的価値において圧倒的に差別化要素になるから必ず入れる」、というモデリングができたらいいですね。

延岡「価値の強さ」と、他の企業ではなかなかできないという「難しさ」がポイントですね。今日は最初に述べた価値づくりの話にどうしても戻ってしまうのですが、産業革命後に大量生産が始まった頃に、手作りの本当の良さといった価値が失われてしまったということは、デザインの世界でもよく言われていることで、そこをうまく取り入れていくことが価値づくりの1つのポイントです。アップルが削り出しという、いわば原始的なモノの作り方を取り入れたのも似たような話で、吉田カバンも全国約80人の職人や工房と連携し、すべてメイド・イン・ジャパンで製品を作っています。今どきカバンをすべて国内で作るというのはとても考えられないことですが、同社は高いスキルやノウハウを持つ職人が手作りでカバンを作ることに高い価値を実現し、手作りというものをうまくネットワーク化して、あれだけの量のカバンをメイド・イン・ジャパンで作っています。ある意味でアップルの例に似ていると思うのですが、商品づくりにかなり難しいことを無理やり入れ込むからこそ、逆にデジタル的なネットワークの管理をきちんとやれば、手作りの要素をいろいろなところに入れ込みながらも、全体的にはうまくマネジメントができて、良い商品を作ることができるのです。

対談風景その6

中村そうですね。

延岡そういう価値が非常に高い部分は、コストがかかったり、ある意味で無駄に近いとも言えますが、ツールをうまく活用することで、全体を効率よくマネジメントできます。(技術的・ノウハウ的に)難しいことから意味的価値が生まれ、それが商品づくりに取り入れられることが、日本の目指すところだと思います。

中村それによって新たな価値が生まれ、強い差別化ができるわけですね。

延岡「インダストリー4.0」も、少し賢い人が考えれば、社内だけなら比較的簡単です。吉田カバンのように、社外も含めたネットワークをうまくマネジメントするということになると、大きな力を発揮する可能性がありますね。

中村ある意味、社内であれば日本でも、標準化はしていないものの、個別的には「インダストリー4.0」に近いことをすでに手がけているわけです。「インダストリー4.0」では、各設備がインテリジェントな機能を持ち、互いに通信しながら「スマートマシン」として自律的な動作で連携します。私は、そういう「スマートファクトリー」の中で連携するのは設備だけである必要はなく、人も「スマートマン」として連携すべきだと思います。

延岡なるほど。

中村今われわれが手がけているのは、簡単に言えば「インダストリー4.0」の「人間版」で、作業者にスマートフォンを持たせてさまざまな指示を出し、作業者もその結果のデータをスマートフォンで入力しフィードバックするというものです。それが職人芸なのか単純作業なのかはさておき、人の力や人の作業がスマートマシンとともに連携していくという新しい形態があり得ると思います。20世紀における大量生産システムの先駆けとなったテイラーの科学的管理法(テイラー・システム)は、当時としては新しいコンセプトでしたが、モノづくりはそこでいわゆる「手続き型」に変化しました。今ではそれがモノづくりの上流の端にまで広がり、その揺り戻しが起きているのでしょう。下流の方はまだですが、ある意味で、テイラー以来の「手続き型」のモノづくりが終焉に近づいていると考えられます。だとすれば、「動的型」という言い方が適当かどうかはわかりませんが、従来とは異なる仕事の進め方を構築することが不可欠です。「動的型」のモノづくりの中で、意味的価値を生み出すコア技術を作り込んで差別化を図り、もちろん従来通りQCDにも励んでいくという、その道を進んで行かなければならないということですね。

延岡「手続き型」のモノづくりの効率がいいのは間違いありません。ただ、それが低次元の「手続き」で終わってしまうなら、非合理的なルールに縛られた官僚組織と同じです。ですからここで、価値そのものの向上を図り、より高い次元での「手続き」をなるべく早く構築しなければなりません。中村さんはその「動的型」のモノづくりと、より高い次元の「手続き型」のモノづくりの両方をやられないと…。低い次元の「手続き」の話だけをしても仕方がないですからね。

中村「価値モデル」という言葉が適当かどうかわかりませんか、価値そのものを何らかの形で評価できたらいいと思いますね。

延岡そうですね。しかも(価値づくりの)ネタになるものは、センスのある人がきちんと考えれば、設計開発よりモノづくりの方が、ずっと多いのです。たとえば半導体はそのほとんどが標準品ですから、商品開発の段階でどう差別化し、自社だけにしかできない価値を生み出すのかを考えること自体が難しい。その一方で、製造の話になると、材料だけでも何百種類あり、アップルもアルミ材だけで何種類も使っています。作り方もいくらでもありますし、「触って気持ちいい」というユーザインターフェイスの部分でも、かなり製造が重要です。まさに、真似をされない価値を生み出すポイントになるのが製造であり、そこを本当にきちんとやっていくことが重要だと思います。

中村DFM(Design for Manufacturing/製造を考慮した設計)やDFA(Design for Assembly/組立性を考慮した設計)などの評価モデルに即しているかどうかわかりませんが、たとえばそういうモデルの中で「意味的価値」を記述することができるのか、という難しい問題もあります。

延岡かなり難しいですね。しかし価値を生み出すことにおいては、やはり人が大事です。日本にはそこを担う力を持った人材が十分にいますからね。

中村本来は、そういう人材がいるのですよね。

延岡いるんです。じつは私は今、マツダのデザインの研究をしています。皆さんがこの考え方に同意して下さるかどうかわかりませんが、私はマツダのデザインが日本では圧倒的にトップを走っていると思っています。その1つのポイントは、デザイナが描いたイメージをクレイ(粘土)で造形するクレイ・モデラーに、アーティスティックな能力が非常に高い人を使っていることにあります。

中村そうなんですか。

延岡デザイナに、デザインの良さを表現させようというのが普通の会社です。ところが本当に美しい曲面をデザインしようと思うと、彫刻の芸術作品と同様に、コンマ数ミリという微妙な削り具合でカーブを作る作業が、まさに顧客価値に直結するのです。その意味で、モノづくりで本当に高いスキルを持った人が、そういう部分を顧客価値に結びつけることを可能にするようなマネジメントが大切です。普通の自動車メーカではデザイナがスケッチを描き、それをもとにしてクレイ・モデルを作るというオペレーションだけを、クレイ・モデラーにやらせています。要は単なるオペレータなのですが、マツダでは、クレイ・モデラーの中の数人が、デザイナ以上にデザインを熟知している人で、彼らがデザインを考えながら自分でクレイを削るのです。マツダは、そういう力を持つ人材を最大限に活用しています。

中村なるほど。

延岡別の言い方をすると、東大で電子工学を勉強したエンジニアよりも、現場でさまざまな材料に触れたりしている高専卒、高卒の人の方が、他社と差別化できる本当の価値を創ることができる可能性が高いと思うのです。そういう人材をうまく使うことがポイントですね。

中村最近の流行りとしては、デザインスケッチから「Alias(エイリアス)」などのソフトウェアによる3Dデザインに入っていますよね。どのタイミングでクレイ・モデルが入るのか私にはよくわかりませんが、マツダでは「Alias」などを使ったりはしないのですか。

延岡もちろん、いろいろな形があります。先ほどの話はスポーツカーのように、アーティスティックな部分が本当に評価される車種の例です。

戦略的に変えるべきこと、残すべきこと

中村延岡さんもマツダのご出身ですが、最近のマツダはたしかに素晴らしいですね。

延岡デザインが大きな力を持って価値を生み出しています。今日の話は価値づくりにおける設計と製造の分業・再統合が主なテーマですが、もう1つ、デザインとエンジニアリングの一体化による価値づくりも重要ですね。

中村そうですね。

対談風景その7

延岡デザインとエンジニアリング(の関係)は非常にはっきりしていて、デザインとエンジニアリングが分業化したのは、1920年代に米GMに初めてデザイン部門ができてからのことです。

中村(さまざまな階層に合った車種を提供するという)車型展開を行ったのがGMですね。

延岡それで無理やりデザイナという職種を作ったのです。それ以前は、商品を設計する人が、建築家と同様に、デザインも含めて良いものを作るというスタンスで仕事をしていました。今、デザインが設計から分業して100年弱が経ちますが、最近では間違いなくデザインと設計の統合が進もうとしています。

中村規模の問題もあるかもしれませんが、マツダは組織的にも他社とかなり違いがあるような気がします。

延岡規模ですね、やはり。

中村逆に、その規模が今はうまく機能していて、(組織が良い意味での)「中抜き」になっているのではないでしょうか。たとえば設計―生産技術―製造というラインの中で、設計と製造の結びつきがきわめて強いと私は思います。設計と製造の連携が良好で、もともと製品ラインナップも少なかったので、トヨタのように「車型が多いのでモジュール化した方がいいのか」という話にならず、今の時代に合ったアプローチが取りやすくなったのではないかとみています。

延岡なるほど。

中村というのも、先ほどのクレイ・モデルによる造形の話にしても、より大きな会社だと、一気にデジタルツールに流れてしまい、現場では、街中の3次元(の風景)をガリガリ描いて(バーチャルの世界で屋外に)飛び出した状態で、光の反射をCGで見るということを一生懸命やっているわけです。そういうことではなくて、昔からの淡々とした作業の積み重ねをやる人がまだ残っていることが、結果的にマツダの強みにつながったのではないかと私は思いますが、そこはどうお考えでしょうか。

延岡単に残っているだけではなく、差別化のために戦略的に残していますね。

中村戦略がある、と。

延岡そうです。現場にものすごい力量を持ったスーパーマンが数人いて、彼らが引っ張っているのです。リスクもある尖ったやり方ではありますが、皆に才能があったので、たまたま当たっているという感じです。今、マツダではデザイン決定についても、多数のユーザにモデルを見てもらうユーザクリニックをまったく行っていません。自分たちが信じる普遍的な良いモノを作ろうというスタンスを貫いています。

中村その意味で、マツダの事例は、日本のモノづくりにおける新たな価値づくりの参考になるのではないでしょうか。

延岡もともと自動車産業は、価値づくりが比較的容易な業態です。本当は、日本の電機メーカから1社でもそのような企業が出て来てくれたら理想的なのですが…。でもそれは、まったく無理な話でもないと思います。アップル然り、ダイソンも、掃除機だけであれだけの利益を上げているわけですから。

中村少々厳しいことを言えば、ダイソンの掃除機は吸引力を始めとする機能が、とびきり優れているわけではありませんよね。

延岡はい。機能的価値で売れているのではありません。それでも僕は、2台も買ってしまったのですが(笑)

中村そうなんですか(笑) やはり日本の電機メーカにも1社ぐらいは、そういう会社がほしいところですね。自動車やコピー機などでは、日本メーカが高い競争力を持っているのですが…。

延岡あとは世界的なブランドになっているとすれば、非製造業ですが、無印良品もそうだと思います。

中村無印良品はフランスなどでもかなり売れているようですね。

延岡そうですね。

中村話を戻しますが、今日は価値づくりの狙いやポイントに加え、主観的価値の汎用化、それから組織的能力をいかにマネジメントしていくかが、ベンチャー企業は別として、とくに既存の大手メーカの課題だという話を伺いました。

延岡その前に、製造こそ価値を生む源泉であるということを、再認識してほしいと思います。おそらく、それが大事だということがわかっている人は案外多く、実際にクール・ジャパンがどうしたとか、有田焼や南部鉄器などの伝統工芸がどうという話をよく耳にします。でも私が言いたいのはそういう話ではなく、製造のメインストリームの部分で、日本のモノづくりの強みを活かした価値づくりをきちんと行っていこう、ということなのです。

中村そうですね。私もそこには以前から違和感を抱いていました。経産省のミスリードによる部分もあるのではないかと思います。

延岡経産省はおそらく、モノをどう作るかではなく、モノづくりよりも商品開発の方が大事だという方向に、持って行っていこうとしているのでしょう。その一方で、そう言ってはいながらも、クール・ジャパンのように、メインストリームのモノづくりから遠く離れた「飛び地」にあるような話ばかりをしています。そもそも日本企業が本当に誇るべきモノづくりの強みを、製造のメインストリームの中できちんと価値に結びつけようということを、誰も手がけていません。

中村そう思います。手前味噌ですが、当社は第4回「日本モノづくり大賞」を経済産業大臣からいただいたのですが、私はその表彰状に「あなたをモノづくり名人として認めます」と書いてあるのを見て愕然としました。「『日本モノづくり大賞』の枠組みには職人しか存在しないのか、これは少し違うのではないか」と(笑)。

延岡じつは私は、その「日本モノづくり大賞」の審査員を近畿地方でやらせていただいたことがありますが、政策的な意図をかなり感じますね。

中村最後に、日本企業が価値づくりによって再生していくうえで、3次元CADやシミュレーションを始めとするデジタルエンジニアリングがどう役立つとお考えですか。

延岡繰り返しになりますが、難しくはあっても、本当に価値を生むことを商品づくりの中に入れ込もうとするからこそ、効率化のための技術が要るわけで、デジタルエンジニアリングは日本企業の価値づくりに間違いなく役立ちます。デジタルツールを単なるコミュニケーションの道具ではなく、価値づくりを行う人が、いわばスーパーマンになるようなものにしていってほしいと思いますね。

中村それは大事なポイントですね。

延岡私が以前、3次元CADの研究をしていたときもそうでしたが、良い会社は3次元CADの導入時に役割分担に関する組織的な革新も同時にきちんとしていて、フロントローディング(製品開発の初期工程に重点を置いてリソースを投入し、品質の向上を図ること)もしっかり進めています。ところが、あまりよくない会社は、CADデータが3Dであるという価値だけを利用しているにすぎず、仕事のやり方や組織構造自体を変えようとしません。ですから、デジタルエンジニアリング技術を提供する会社には、クライアント企業が、仕事のやり方や組織構造自体を変えるというところまでを、ソリューションとして提供していただきたいですね。

中村そうですね。デジタルエンジニアリングそのものが、付加価値を生み出すのではありません。私がこの仕事を手がけている理由は、デジタルエンジニアリングを、延岡さんがおっしゃる意味的価値を生み出す土壌にしていかなければならないと思うからです。逆に、デジタルエンジニアリングにすべてのリソースを投入してしまったら、意味的価値が高まらないどころか、同じことが誰にでもできてしまうようになってしまいます。

延岡それでは差別化になりません。

中村そもそもデジタルエンジニアリングでできることは、たかが知れています。その、たかが知れているところに過大な人的コストを投入していることが問題で、デジタルでできることはデジタルに任せるべきだと思うのです。むしろデジタルでできないことを、いかに人間がやるのかが大事であって、「人間ができることはいったい何なのか」と、ある意味で人間を追い詰めるのがデジタルエンジニアリングの役割だと私は考えています。そういう人間とデジタルとの戦いのようなものがなければ、向上はありません。

延岡なるほど。

対談風景その8

中村加えて言うと、たとえば最適化であるとか、ある部分の物理的な仕様を出すといったことはコンピュータでできますが、それ以上の価値はコンピュータには出せません。だから「もっと高度なことや、意味的価値に結びつくようなことを、人間がやりなさい」という一種の対峙関係を作るものが、デジタルツールだと思うのです。いわば、人間を楽にするためのツールではなく、人間がより高いところを目指すための環境を作るものが、デジタルツールだと私は位置付けています。今まで人間が頭の中で漠然としかイメージできていなかったものが、バーチャル技術によるシミュレーションを見ることによって「じつはこういうことだったのか」という気付きを生むようなものに(デジタルツールを)していきたいと思いますね。今日は非常に興味深い話をいただき、ありがとうございました。

延岡いえいえ、こちらこそありがとうございました。

取材・構成 ジャーナリスト加賀谷貢樹

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