◆「プロフェッショナルの知とデジタルエンジニアリング」対談シリーズ

第3回 エンジニアリングチェーンを強化し、価値と競争力の再構築を図れ 前編

株式会社O2 代表取締役社長 松本晋一氏×レクサー・リサーチ/中村昌弘

松本晋一氏

松本さんは大手化学メーカからITベンチャー企業、コンサルティングファームを経て、2004年3月にO2を設立された。ECM(エンジニアリングチェーン・マネジメント)を切り口に製造業の設計・開発領域の改革を提案している。現場に入り込み、達成にまでかかわる実現力を武器に、日本の名だたる大手企業の内部改革を進めてきた実績を持つ。当社もアプローチは異なるが、仮想工程計画・生産ラインシミュレータ「GP4」や生産システムシミュレータ「GD.findi」をベースにしたプロダクトを開発し、設計から量産までの基本プロセスをどう改革していくのかという点で、日本の製造業を支援させていただいている。そういう中で、松本さんの活躍の素晴らしさや製造業における業務改革の難しさを理解している。「手も出せば口も出す」をモットーに、クライアントから絶大な支持を得ている松本さんと、「今からのものづくり」をテーマに議論を進めていく。

揺らぎ始めた技術立国・日本の技術 対談風景その1

中村最初に、松本さんの広い接点の中で日頃感じていることをお聞かせ下さい。特に日本の製造業には保守的になってしまったり、現場が疲労しているなど、さまざまな課題がありますよね。

松本少し話が飛びますが、私は「格差社会」を実感しています。小泉元首相の頃から「格差、格差」と言われるようになりましたが、あの頃は個人間の格差を意味していたと思います。ところが最近では、企業間の格差が大きくなり始めているような気がしますね。

中村そうですね。

松本たとえばトヨタ自動車では、創業家出身の豊田章雄社長が旗振り役を務め、非常に良い業績を収めています。そこでトヨタは利益還元のため、下請け業者に値下げ要求をしないと宣言しました。ところがその宣言はTier1(一次下請け)には届いていても、Tier2、Tier3は依然として値下げ要求を受けています。日本の製造業はトヨタやソニーなどの大手メーカを頂点とするピラミッド構造になっていて、モノが下から上に流れる一方、お金は上から下に流れていくはずなのですが、お金の流れが途中で止まっているように見えるのです。つまり、モノづくりのバリューチェーン全体の中で、富の配分が最適になされていない。その結果として、ピラミッドの底辺の企業は利益が還元されず、投資余力がないという負のスパイラルに入り始めている印象を抱いています。

中村まさしくそうですね。

松本もう1つ、日本企業が海外企業に勝てていない理由として、戦略がないということがよく言われていますが、私は、日本企業の技術そのものが落ちてきていることも大きいと思います。私は2014年2月から12月まで週刊「ダイヤモンド」に「日の丸製造業を蘇らせる!”超高速すり合わせ型”モノづくりのススメ」という記事を連載しました。そこにも書いたのですが、たとえば部品製造の仕事を外部に委託する場合、自分たちがその部品を作れなければ、製造委託がうまくいかないにもかかわらず、多くの企業が、業績悪化でリストラを行う際、ノウハウを社内に残さないまま人を出している。ノウハウが企業に蓄積されていないため、人がいなくなるとノウハウまでなくなってしまうのです。

中村おっしゃる通りです。

松本部品を作る人がいなくなったため、たとえば中国企業に製造を委託しようとするとき、見積金額が高いのか低いのかを自分たちで判断できなくなるほど現場の力が低下しています。日本は「技術の国」だと言われていたのに、その技術力が低下してきていることが、グローバル市場における競争力の低下にもつながっているような気がします。非常にゆゆしき事態ですよね。

中村松本さんがおっしゃることはまさしく客観的な認識であり、同感です。日本の製造業の産業構造はやはり特殊です。最近はあまり言われませんが、昔ながらの系列も結果的に残っており、サプライチェーンと綺麗事は言っていても、ピラミッド構造も残っていて、他国や他の地域とは明らかに異なります。

松本そうですね。

中村たとえば一番、古いインダストリーであるスイスの時計産業、もしくはヨーロッパの製造業の産業構造はホリゾンタル(水平的)で、その中で部品調達を行っています。最近、モジュール化について喧(かまびす)しい議論がありますが、ヨーロッパではもともとホリゾンタルな構造の中で、結果的にモジュール化や標準化が進んできたわけですね。

日本式「積み上げ」思考の限界 対談風景その2

中村私は機械式時計が好きで、時計の部品を手に入れて自分でも作るんです。スイスには有名なオメガやロレックスなどのブランドがありますが、たとえばオメガ「スピードマスター」のムーブメント(キャリバー)は購入品で、勿論、設計もムーブメントメーカが行っています。

松本そうなんですか。その話は、私にとっては衝撃に近いですね(笑)。

中村あまり知られていませんが、ムーブメントメーカとしてはバルジュー、ユニタス、エタなどが代表的で、その中でパワーがあるとか精度が出る、壊れにくい、メンテナンスしやすいなどの優れた製品が結果的に標準になってきたのです。たとえばオメガの「スピードマスター」にはバルジュー7750というムーブメントが使われていますが、そのムーブメントに合わせて針メーカが針を作り、ダイヤル(表示盤)メーカが文字盤を作っています。時計メーカがムーブメントや針、ダイヤルを買ってきて、ケースに入れて組み立てれば時計ができるわけで、それを50万円や100万円という値段で売っているのです。

松本中村さんは、そういう部品を個人輸入して時計を組み立てているのですね。

中村ええ、これがそうなんですが、立派に動きます(笑)。いろいろ調べてみるとリペアパーツが売られていて、それらを買ってみて組み立ててみると、本当に時計が組み上がるんです。私個人の趣味でもありますが、産業構造の調査という位置付けで、情報収集も兼ねて時計を組み立てています。

松本そうなんですか。

中村これは時計業界に限りません。たとえばヨーロッパの自動車メーカを例に挙げると、BMWのXシリーズやダイムラーのGクラスという四駆シリーズがありますが、じつは両シリーズを、同じ会社がODM(相手先ブランドによる設計・製造)で製造していました。日本で言うと、トヨタの86と日産のスカイラインを、外注先が設計から製造まで手がけているようなものですが、これはヨーロッパの産業構造の中では決して不自然ではありません。

松本そもそも、そういう構造になっているのですね。

中村例えばボッシュなどもそうですが、ヨーロッパでは、部品メーカは表には出てこなくても大きな存在価値を持っていて、なおかつ自社が手がけるビジネスにも流動性があります。ところが、日本の部品メーカは元請けから言われるままにモノを作り、コストを半分にと言われたら半分にしなければならず、他の系列に行くこともできません。そういう産業構造には問題があると思います。

松本今のお話を聞いていて、日本の産業構造は「階段」だと感じました。それは、サプライヤから集めた数多くの部品の価格もしくは価値が階段状に積み上がって販売価格になるという意味です。ところがヨーロッパでは、オメガの「スピードマスター」のように、部品を組み上げて最終製品になる段階で一気に価値が跳ね上がりますよね。

中村付加価値構造がまったく違うのです。

松本ある意味で、ブランディングがうまいのでしょうね。

中村仮にムーブメントの調達価格が5万円だとすると、オメガなら最終製品が50万円ぐらいになります。ところが名の知れないメーカが同じ部品を使い、同じクオリティの製品を作っても10万円にしかならないのです。ブランドや外観のデザインを始めとする付加価値の違いだけで、それだけ差が出るわけですよね。

松本つまり、最終製品を扱う企業がブランドをしっかり確立し、良い値段で製品を市場に出しているから利益を確保できている。結果的に、そこで利益を還元できているから下請けも潤っているように見えますね。一方、日本では、それを適正価格と言うのかよくわかりませんが、製品を安価に売るしかないため、下請けに利益があまり還元されていないような気がします。非常に考えさせられる問題ですね。

中村これは、モノづくりの価値はどこにあるのかという意味で、きわめて本質的な問題ですね。産業における付加価値構造の話であるとともに、プライスリーダーの存在という問題も大きいと思います。日本の付加価値構造は、松本さんがおっしゃるように「階段」状で、ある機能に別の機能が積み上がるのと並行し、価値が積み上がっていく中で、「この製品ならここまでできるから買う」となる。一方、アメリカやヨーロッパでは「ここまでできるから」ではなく、「ここはこういうものだ」というディフィニション(定義)が強く、スイスの高級機械式時計メーカを典型に、腕時計1個が100万円とか300万円と、絶対に値段を落としません。

松本なるほど。

中村私はその(プライスリーダーという)意味で、典型的なのが建機産業でしょう。たとえば私の古巣であるコマツの建機がいま、GPSなどの通信システムを活用した遠隔車両管理システム「KOMTRAX」で成功しています。ところが世界の建機市場における圧倒的なトップは米キャタピラ社で、売上高はコマツのも2倍と、大きな開きがあるのです。アメリカ企業の価格戦略の特徴は「ここでこれだけの利益を出す」という価格が最初にあり、そこから価格を落とさない。ということは、コマツは、価格を落とさないキャタピラのプライスモデルで形成されている市場で製品を売ればいい。しかも鉱山市場では単品販売ではなく、ダンプとパワーショベル、ホイールローダといったさまざまな機種をセット売りすることが多く、フルラインメーカが有利なのですが、フルラインメーカは世界中にキャタピラとコマツしかありません。その中で、キャタピラは値段を下げない。こうした価格競争力は業界の中で決まるものですから、このような点はひとつのポイントだと思います。

松本改めて考えさせられるのですが、日本では現場主義とよく言います。現場の事実に基づきながら「積み上げ」で考え、最後に結論を出すわけですね。ところが今のお話だと、海外メーカには最初に「ここを目指そう」という目標があり、そこから(具体的に)落としていきます。一方、日本メーカは原価を積み上げ、そこに利益を載せて販売価格を決めるという発想から抜けられないので、思考プロセス上、高級ブランドを作ることが難しいのではないかという気がします。

「自社の価値」をどう構築すればいいのか 対談風景その3

松本先にお話のあったフルラインもそうですよね。自社に競争力をどう構築するかを考えた場合、「ゆりかごから墓場まで」のように製品単体ではなく(ラインナップを)広げていくビジネスモデルを構築できるのはやはり強いと思います。たとえばコマツさんにはグループ内に教習所もあり、リースを扱う金融会社もある。グループの物流会社では運送や物流センターを手がけているほか、現場監督などが詰めるプレハブハウスを造る会社もあって、グループ全体で顧客を囲い込んでいるような感じです。

中村金融収支は非常に大きいですね。

松本トヨタが約10年前に旧東海銀行からカードローン部門を買収し、収益率の高いオートローン事業を取り込んでグループ会社化しました。かつて米GMでは、その利益の約6割から8割をGMキャピタルというオートローン会社が稼いでいました。ある意味、車を作って稼ぐのではなく、別の事業で稼ぐビジネスモデルを作った会社が勝っていて、愚直にモノだけを作っているところが苦しんでいるような気がします。

中村そういう現状ですね。

松本その意味で、「KOMTRAX」は「コロンブスの卵」的な発想です。最初は盗難防止の目的でGPSをつけたのですが、あとからさまざまな付加価値を加えています。非常にうまいやり方ですね。

中村「コロンブスの卵」的な発想の転換というのもそうですが、新しいことを本当に実行したことが大きいですね。私もよく言うのですが、ビジネスモデルや価値構造についていくら考えていても、実際にビジネスとしての価値はどこにあるのかを測らなければ、何も生まれません。世間では多くの人がビジネスモデルや価値構造について考え込みますが、それほど「おいしい」商売のネタは見つからないものです。でも実際に行動してみると、そういうものが案外どこかに転がっていたりする。それを誰が手がけ、成功の果実を手に入れるかということだと思います。私もコマツ出身なのでわかりますが、コマツは実行する気概がある会社で​す。「考えているだけでは始まらない、やってしまえ」というように。

松本そうですか。今の時代、良い会社というのは、実行している会社だと思います。サントリーも創業者・鳥居信治郎さんの口癖だった「やってみなはれ」という言葉を地で行くような感じで業績を伸ばしています。そもそも今の時代は市場の予測が難しく、どれだけ精緻なプランニングをしても、それがうまくいくのかどうかはほとんどわかりません。そういう中で、「うまくいくのかわからないならやってみて、行動しながら修正する」という、「動きながら考える」ことを実践できている会社が伸びています。

中村そう思います。

松本それを「実行力」と言うと安っぽくなりますが、ベンチャー企業の強いところは、さまざまななことをどんどん実行し、修正しながら前に進んで行くところだと思います。かたや大企業はマーケティングや商品企画などの部門であれこれ考え、商品を出す、出さないと言っている間に、ベンチャーに先を越されてシェアを取られたりしてしまう。その意味でスピード感、胆力、あるいは割り切りが大事なのかもしれません。

中村いろいろ言い方はあると思いますが、考えても始まらないという中で、やはり大切なのは実行することです。とはいえ、たんにチャレンジをするだけでも駄目で、実行しながら(市場を)冷静に見極め、価値を手に入れる能力が要りますね。それから、これは見極めが難しいのですが、「そこに(価値の源泉が)何かある」ことをつかむ直感力のようなものも必要です。つまり(成功するには)北に行けばいいのか東に行けばいいのか、あるいは西に行けばいいのかという、可能性を感じる能力ですね。

松本必要ですね。ところがいま、商品が売れるのか売れないのかを論理的に数字で証明しないと出荷できない風潮が大企業の中にあるような気がします。でも、そういう形で証明できるものは既に誰かが出しているのです。いま多くの企業が経営の可視化や数値化といった、欧米化されたガチガチの経営手法に向かっていますが、もっと感性的でアナログ、あるいは自由に物事を考えている会社のほうが、うまくいっているのではないでしょうか。

中村そうですね。ところが「やってみなはれ」とは言っても、何をやってもいいわけではありません。徹底的な議論を経て、「(リスクはあるが)それでもやる」というのが本当のところなのでしょう。それを胆力と呼んでもいいと思うのですが、そういうことがいま、なかなかできなくなっているのが残念です。

松本そこにもつながることですが、最近では製造業の現場でも、人がなかなか育たないという話がよくあります。昔は車にしても開発期間が2、3年あったのですが、それがいまでは1年や1年半になり、学びながらモノを作っていくことができなくなりました。そのようなOJTが許されないほど開発期間が短くなり、かつ失敗が許されないほど余裕がなくなったという環境の変化があります。昔なら失敗をしてもそれなりにリカバリできていたものが、いまでは失敗するとリカバリできないような状態。私は失敗を受け入れるモノづくりの環境をどう作っていくかが、モノを作りながら人を育てる環境作りと同義だと考えています。

中村失敗が許されないというのは、きわめて根の深い問題ですね。そういう中で、とてもリスクは取れないという経営側の問題が少なからずあります。その背景には株主資本主義もあると思いますが、経営陣が経営における間接部門の価値を適確に把握しないまま、間接部門がコストセンターとみなされ、人員がどんどんスリム化されていることも大きく、その結果、現場の余裕がなくなっています。昔は自動車メーカにはプレスから溶接、塗装に至るまで、車の作り方を全部知っているというベテランがいましたが、いまは各部門にエキスパートはいますが、全工程を知っている人はいなくなってしまった。さらに、これは日本の悪い癖で、業務を下流に丸投げするので、上流には現場の価値がますます見えなくなっている。そのため上流と下流の価値認識のギャップがどんどん広がってしまうのです。

ホンダの組織、トヨタの組織

松本かつては本田宗一郎さんを典型に、経営者は現場にいたような気がします。経営と現場が一体だということではなく、現場の中に経営があったのです。ところが会社が大きくなるにつれて組織がピラミッド化し、結果的に経営と現場が離れてしまいました。あの頃のホンダが凄かったのは、経営と現場があれだけ離れてしまったにもかかわらず、本田宗一郎さんが現場に居続けたことによって、組織が伸びきったゴムのように劣化しなかったこと。どれだけ会社が大きくなっても、組織が弾性を保った状態で、どんどん成長していったような気がするのです。

中村なるほど。

松本ところがいま多くの企業では、会社の成長とともに組織のピラミッドがどんどん積み上がり、社内が伸びきったゴムのような状態になっています。

中村そうですね。企業規模が大きくなり、グローバルに戦線が広がることで、組織のピラミッドが上もしくは下に拡大していくことは致し方ないとしても、昔の管理方法論をそのまま踏襲してはいけないということだと思います。先ほどの話はわかりやすい例で、良い意味で言えばアジャイル(敏捷)で、「何でもあり」で、現場の人たちの創意工夫でやってよかったのです。現場力をベースとするアプローチではシステマチックではない部分があり、現場の個々の判断に委ねることが基本だからです。ところがそういうやり方を踏襲する中で規模が拡大していくと、もともと個々の判断でやらせているので、マネジメントが難しくなります。いわば規模が拡大していくと兵站が伸びる、すなわちゴムが伸びきった状態になるので、規模に応じた管理モデル、すなわちエンジニアリングのマネジメントが要るのです。にもかかわらず、然るべき管理モデルを構築せず、昔の管理手法のまま大きくなったので、マネジメント不在でバタバタしているのが現状だと思いますね。

松本はい。

中村トヨタにはTPS(トヨタ生産方式)という考え方がありますが、外部には見えないところで内部的にはかなり細かな管理メソッドやマニュアルが準備されていて、それが活きています。つまり兵站が伸びても、個々の現場がきちんと回る仕組みを持っているのです。

松本トヨタの面白いところは、1つひとつの組織の中で仕事が小さな単位としてぐるぐる回り、それらの単位がまたお互いにくっついて仕事が回っていること。最小単位の完成度の高さがトヨタの強さではないかという気がします。案外、その単位1つひとつの完成度の高さをうまくつないでいるのがマネジメントなのでしょう。トヨタの方に話を聞くと、課員あるいは部員は自分たちの業務のことを考えていますが、課長や部長クラスはトヨタという会社や車のことを考えていて、組織と組織の谷間にある調整などの仕事を、上の人たちがうまくやっているそうです。

中村なるほど。

松本だからトヨタでは仕事が全体的に流れていて、そういう調整能力の高い人だけが昇進していくのです。もともと部分最適でスペシャリストだった人が、全体的もしくは俯瞰的に物事を見るという思考や行動ができるようになるに従い、昇進していくという意味で、トヨタはバランスが絶妙に取れている会社だという気がしますね。

生産技術の強い会社が儲かる

中村トヨタも組織作りについては、試行錯誤を繰り返しているように見えますね。技術ラインで切ったり、製品ラインで切ったり。言えるのはカイゼンを指導する組織である生産調査部(生調)で現場力に横串が通っているということです。トヨタはもともと「生技」の会社なのです。

松本そうですね。生産技術が強いですよね。

中村昔は「ナンバー生技」と言って、第1生技、第2生技という部署がありましたが、これが縦串の役割を果たしていました。(先の生調と合わせて)縦と横のラインがしっかり通っていたことがトヨタの強みだったのでしょう。

松本生技が強い会社は利益が出ています。

中村そうですね。

松本キヤノンも生技が強いですよね。御手洗名誉会長が凄かったのは、生産技術を重視し、戦略部門と位置付け、モノを効率的に作るために、生技にプランニングをさせていたことです。また、中村さんがおっしゃっていたように、トヨタも生技が強い会社です。ということは、じつは生産技術はメーカにおける要のセクションなのではないでしょうか。

中村そう思いますね。一方、そうではありながら、かつて日本企業で生産技術部は、設計部、製造部と並ぶ独立した部署でしたが、経営側がこの価値を活用できなかったのです。実際、多くの会社では生産技術部がなくなり、その機能を製造部もしくは設計部の中に組み込まれたりしています。つまり製造技術を「中抜き」にしてしまったことが、日本の製造業にとって大きな岐路になったと私は考えています。

松本同感ですね。最近、生準(生産準備)という言葉がよく言われるようになってきました。その辺のことをきちんと考え、新しいことをやり始めている会社は、海外展開がうまくいっています。日本で製造技術を徹底的に磨き、それと同じやり方を、それぞれの国ごとにきちんと展開していくプランをきちんと持っているのです。そういう生産技術や生産準備が強い会社は業績がいいようですね。

中村そこでお聞きしたいのですが、そういう企業はなぜ、生産技術や生産準備の戦略的な重要性をおさえて、海外にも展開することができたのでしょうか。

松本やはり、ものづくりの本質がわかっているからではないでしょうか。

中村なぜそこに気付いたのでしょうね。

松本モノづくりのコスト構造や価値構造を理解しているような気がします。そもそも価値とはどうやって生まれるのか、価値の源泉はどこにあるのか、ということをきちんと把握しているのでしょう。

中村そういう分析的な視点があるわけですね。

松本実際、「ここの部署のこういう取り組みが価値を生んでいる」ということや、「この部署がきちんと作り込み、コストをおさえているから原価割れしていない」という、いわゆる要のポジションや要の工程がどこなのかを認識できているような気がします。

中村そうですね。その一方で、認識とは結果であり、仮にそういうことを認識できたとしても、実行できるかどうかは別の話です。その意味で、なぜ実際に行動できたのかというところに興味がありますね。環境によるものなのか、経営者の旗振りなのか。あるいは会社が置かれている現状の中で、そうせざるを得なかったのか。

松本なるほど。1つは、どれだけ確信を持っているかということだと思います。中村さんは先ほど、「やってみなはれ」のあとに徹底的に議論すると話していましたが、それと同じで、「(ポイントは)ここなのか」と思ったときに徹底的に考え議論し、間違いないと思うからこそ、行動に移せるのです。もう1つ言えるのは、企業文化にも関連することですが、「やってみて失敗したらどうしよう」ではなく「とにかくやってみよう」と思える土壌があるかどうかも重要だということです。

世の中を変える新技術や新製品は予定調和から生まれる 対談風景その4

中村そういう価値体系がしっかりできている組織には、どんなところがありますか。

松本会社組織ではないですが、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が意外とそうかもしれません。感覚的な表現になりますが、「何でもやりなさい」という雰囲気があります。そういう風土の中から「はやぶさ」が生まれたと言うのは早計かもしれませんが…。

中村エンジン、ロケット本体、人工衛星などを大手メーカ数社が分担して手がけており、各社の間でコラボレーションはありません。仕様に合わせて各社がそれぞれのユニットを作り、ロケットを打ち上げるという世界です。それでも「何でもやりなさい」という雰囲気があるということは、ある意味で自由度がまだあるのかもしれませんね。

松本加えて、現場がきちんと仕事をしています。各社がインターフェイス仕様にしたがって機器を製造しているとはいえ、ここは少し考えなければならないというところがあれば、現場力を活かしてお互いに「すり合わせ」を行いながら、結果的にうまくいっているのです。管理主義ではないからこそ生まれてきた「究極の密結合」とでも言えるようなものが、意図しないところで起きているのではないかと思います。「自然発生的な確実性」とでも言ったらいいのでしょうか。

中村わかります。ある意味で、予定調和のようなものかもしれません。ロケットに限らず、世の中を変えていく新たな製品や技術というものは、予定調和的なところから生まれていると私は思うのです。たとえば世間が「ドローン」に注目し始めたのはごく最近のことですが、要素技術はかなり前からありました。制御機構や電力・駆動系を始めとする要素技術は、それぞれパラレルに進歩してきたものですが、それらがどう結合したかと言うと、何かの管理モデルがあったからではありません。ドローンという狙いがあったわけではないものの、どこへでもアクセスできるユビキタスな社会の到来が、各技術者には何らかの形でイメージがあった。そういう中で、予定調和的に進んできた技術が、あるときに結合したのではないかと思います。

松本なるほど。そうなってくると、ここ最近の製造業が志向しているガチガチの管理モデルや経営モデルでは未来につながりませんし、日本が向くべき方向ではありませんね。

中村基本的に日本が強いのは現場、すなわち下流です。けっして管理がいらないという意味ではありませんが、そこをガチガチの管理モデルで縛るのは適しませんね。

松本そうですね。たとえばソニーの社員と話していて、「あの人、管理屋なんだよね」という言葉を聞くことがよくあるんです。技術の対極に管理があり、管理屋と呼ばれる人が数字でしか判断しないということを、揶揄しているのだと思います。昔のソニーは、管理屋ではなく技術屋が感性で物事を判断し、それが当たっていたということを言いたいのでしょう。

ミドルとボトムの強さの復権が必要だ

中村これまで何度か話題にのぼりましたが、良くも悪くも「丸投げ」について、われわれはもう一度よく考えるべきだと思います。すでに述べたように、日本の製造業はこれまで現場力で強みを発揮してきたわけですが、悪く言えばその実態は「とにかく作れ」「やってくれ」「コストを半分にしろ」という丸投げでした。そういう中で、丸投げする人が口を出すだけで、直接、活動にかかわらないという構造が生まれたわけです。松本さんもおっしゃっていたように、本来は経営者が現場に入り、そこでエッセンスを理解して動き、仕事を回していくという現場と経営の関係が必要なのでしょう。でも、そういうことを、かつての中間管理職はできていたのです。

松本それは同感です。ミドルの強さが日本の強さだったわけですよね。

中村そうです。そのミドルの強さが、上流からの「丸投げ」の中でうまく機能していたのです。

松本われわれも中間層の強さが企業の強さであると考えていて、ミドルアップ、ミドルダウンという言葉を最近よく使います。とくに最近、分業が進んだことによる弊害でセクショナリズムが進む中、「自分たちはこの仕事しかしない」という縦割り組織の間をつなぐのは、ミドルがベストだと思うのです。

中村なるほど。

松本その一方で、トップが「私たちはこうやっていこう」というメッセージを一気に現場まで落とそうとした場合、どうしても途中で鮮度が薄くなるではないですか。その意をミドルが汲んで、現場に落とすというように、トップダウンとボトムアップの間を取り持つのもミドルの役割。組織間の横のつながりを取り持つのもミドルですから、やはりミドルが強い会社こそ、本当に強い会社だということなりますね。

中村おっしゃるように、かつてミドルはトップダウンとボトムアップを支えていたのです。ところがいまの大きな問題は、ボトムアップができていないこと。実際、いま多くの企業が、トップダウンで下りてきたことに対して、とにかくボトムで苦労しています。

松本そうですね。

中村そのボトムの活動が持つ強みは何かということを、じつは現場も含めて理解していないことが問題です。

松本現場が、自分たちのやっていることの強みを理解していない、ということですね。

中村はい。つまり、「自分たちがこの製品を、どうしてここまで作り込むことができていたのか、そのポイントはここで、それをこうしたらこうなった」ということを、ミドルなり経営者に対して説明できないのです。

松本なぜわからなくなってしまったのでしょうか。

中村もともと日本の現場は、そこが弱かったのです。それでも以前は優秀なミドルがいたから、それを「翻訳」してもらうことができましたが、最近ではミドルがいなくなってしまったので、さらにモノが言えなくなったのです。ミドルがいなくなってしまった以上、現場に情報発信できる力をつけさせなければなりません。

松本日本人はこういうものだと決めつけるのは乱暴かもしれませんが、日本人はある意味で、現場主義とは言いながら、部分思考に陥っているのかもしれません。現場の人たちが、自分たちのやっていることの凄さや強さ、確からしさを理解していない理由は、「それしかやっていないから」もしくは「そこしか見ていないから」だと思います。だから、自分がいまのポジションより上の場所から全体を見たうえで、仕事や自分の位置付けを知ることができると、「なぜこれが必要なのか」や「なぜこれが価値なのか」ということがわかり、行動も変わるような気がします。

中村そうですね。

松本中村さんは冒頭でヨーロッパの製造業の話をしていましたが、ヨーロッパは陸続きで、ヨーロッパ人は隣の国に遊びに行ったりして自分の国を見ることができるので、部分と全体のバランス思考が日常的に身についています。ところが日本の場合、国から出ること自体がそう簡単なことではないので、部分を全体から俯瞰してみる思考が身につきにくいのかもしれません。

中村それは同感ですね。今、国とおっしゃいましたが、日本人は会社からもあまり外に出ません。別の言い方をすると、人材のキャリアパスの問題があるのです。日本のいわゆるキャリアパスは、たとえば係長が課長になり、そのあと工場長までいって定年というもので、これはあくまでも社内におけるキャリアパスなのです。一方、グローバルで見るとキャリアにはいろいろな選択肢があり、場合によっては会社を出たりすることにもなるわけですが、いままでの経験を活かし、新しい組織の中で自分の価値をどう発揮するかというのが、本来のキャリアパスだと私は思います。

松本そうですよね。「自分はこの会社で働いて、こういう形で出世していくのだろう」ということしか考えない人と、同業他社や他業種の会社を見たうえで、「自分はこういうことができる」とか「自分はこういうことがしたい」と、自分の思考をどんどん広げていく人がいると思います。教育の問題もあるのでしょうが、この落差を是正しない限り、日本という国がグローバルに戦っていくことは難しいのではないでしょうか。

中村私は単なる教育の話ではなく、構造の問題だと思います。だからといって、いまの日本の大企業における構造を全部壊してしまったらいいのかというと、そうではありません。ですが、個人が従来とは異なるフィールドで、柔軟なキャリアパスや価値を築き上げていくことを支援する組織や枠組みが必要だと思います。

松本そうですね。

中村海外の企業には、自社のことよりも他社のことをよく知っている人がいます。なぜかというと、多くの社員が転職経験を持っているからです。ところが日本の場合、我々がセミナを開催すると、「他のメーカの方と交流ができるから」という理由でセミナに来られたりします。他社のことをよく知らないので、企業のカベを超えて交流したいと思いが強いと思います。

対談風景その5

松本以前に比べて、社外の人たちと交流しようと思い始めたこと自体は、評価していいと思います。私自身も、「(私は)この会社のことしか知らないので」とか「このセクションしか知らないので」、「井の中の蛙ですから」と言われることが多いですね。

中村「他の業界のことを教えて下さい」とか、とよく言われるのですよ。

松本そこを変えていかなければならないような気がします。

次回に続く

取材・構成 ジャーナリスト加賀谷貢樹

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