◆「プロフェッショナルの知とデジタルエンジニアリング」対談シリーズ

第2回 「グローバルなモノづくり」とは、世界を見据えた「トータルなモノづくり」と考えよ 前編

ラティス・テクノロジー/代表取締役社長 鳥谷浩志氏×レクサー・リサーチ/中村昌弘

鳥谷浩志氏

今回お越しいただいたラティス・テクノロジー(http://www.lattice.co.jp)の鳥谷浩志社長は、日本発のオリジナル3D技術を開発し、設計・製造領域におけるデジタルエンジニアリングの世界をリードしている。とくにXVLという超軽量3Dフォーマットを設計と製造分野に持ち込み、生産現場を変えていこうと日々邁進されている。XVLでは、3次元CADデータを1/100程度のサイズに軽量化できるだけでなく、3D形状に加えて属性情報、構成情報という3次元CADデータに含まれる情報をあわせて表現することが可能だ。そのため設計、製造、生産技術、サービス、調達といった各業務の目的にあわせて3Dデータを有効活用できる。
当社も仮想工程計画・生産ラインシミュレータ「GP4」を開発し、また、最近ではクラウド生産シミュレータ「GD.findi」を展開している。領域は工程設計と少し異なってはいるが、鳥谷さんが開発された技術の素晴らしさや、製造業におけるデジタルエンジニアリングの導入の難しさをよく理解している。こうしたことを背景に議論を進めていきたい。

超軽量3Dフォーマット「XVL」開発の背景 対談風景その1

中村皆さんもよくご存じだと思いますが、最初に御社の技術とその開発の経緯について、鳥谷さんからご説明いただけますか。

鳥谷最近、製造業では3次元CADが普及してきていますが、多くの場合、設計者しか3次元CADデータを利用していません。2000年頃は、CAD/CAM/CAEにより、設計部門を主体に3次元データは利用されていました。当時、これが広がらない最大の原因はデータの重さにあるのではないかと考えていました。そこで、1997年に当社を創業し、データを軽量化することで、誰もが手軽に3次元データを使えるようにすることを目指す「Casual 3D」という新たなコンセプトを打ち出しました。まだ、インターネット接続も電話回線が主流で、ネットワークがまだ細かったので、徹底的にデータを軽量化し、誰でも3Dデータをネット共有できるような技術としてXVLを開発したのです。

中村ユーザの反応はいかがでしたか?

鳥谷実際に製造業に持っていったところ、当初はデータが軽いというだけで大きな反響がありました。われわれが最初に手がけたXVLのバージョンでは、データサイズを軽くして製造部門などのパソコンでも表示できるようネットワークでの転送を高速化しました。デモをする度に、ネットでもここまでの3Dデータが転送できるのか、と驚かれました。しかし、3次元CADの普及に伴い2003年頃にはニーズが変化します。たとえば車では、1台分の3次元CADデータが10ギガバイトを超えるサイズになります。そこで、XVLの2番目のバージョンでは、10ギガバイトのデータを32ビットのPCでも扱えるようにするために、省メモリ性と高速表示を徹底的に追求したのです。そうこうするうちに、トヨタさんなどに代表される大規模メーカから「もっと大きな3Dデータを扱ってほしい」というご要望をいただく一方、ボーイングさんのような航空機メーカからは「ネット環境の貧弱な世界中のさまざまな空港でアクセスするので、もっと3Dデータを小さくしてほしい」という矛盾するニーズが寄せられました。そこで最新バージョンでは、その2つの技術を統合して、非常に軽くて大容量なデータを扱えるXVL技術を確立したのです。その結果、製造やサービスを始めとするさまざまな分野で3次元データが扱えるようになってきました。

中村なるほど。当初、設計データの軽量化という方向に行かれたものの、製品の提供が進むにつれて、さまざまな課題が生じ、さらなる技術の進化を進めているということですね。今インターネットの世界では、データ転送能力やCPUの処理能力が高まっていますが、とくに製造業で対象になるデータは、ネットワーク回線の転送能力にくらべてまだまだ巨大だということですね。

鳥谷そうですね。まさに中村さんが今、言われたところがポイントで、最近ではネットワーク回線も太くなり、PCのメモリも大きくなり、64ビットPCも出てきています。そのため私も会社を作ってから「いずれXVLという技術は必要とされなくなるのではないか」と危惧していましたが、実際には逆の方向に進んでいます。たとえば車の3次元データについても、製造業のグローバル化などによって、さまざまな車のバリエーションが必要とされるようになり、当初は1台で10ギガバイト程度だったものが、20、30ギガバイトとますます大きくなっています。それに加え、たとえば3Dデータを生産技術部門で使おうと思うと、今度は3万点の部品に加えて、さまざまな組立工程の情報まで入ってくるというように、さらにデータの大規模化が進んでいます。

中村それはやはり、3次元データ技術の可能性が市場から注目され、ニーズが顕在化してくる中で、ユーザからの要求も多岐にわたっているからですね。

鳥谷その通りです。また、もう一方の技術動向として、タブレットやスマートフォンがどんどん普及していますが、モバイル機器は逆にメモリが少ないのです。iPadの第1世代では256メガバイト、第2世代では512メガバイトしかないと言われていますが、そういうメモリの少ない環境で3次元データを見たいとなると、軽量性や省メモリ性がますます重要になるわけです。上流の設計部門では大規模データで検証し、下流ではタブレットなどで簡単に3次元データにアクセスするというように、製造業の上流・下流両方のプロセスでXVLの技術が必要になってきていると感じています。

日本の製造業が抱える課題 対談風景その2

中村つまり、XVLはこれからますます求められる技術だということですね。そういう鳥谷さんのご活躍の中で、製造業にも接点が広がり、お客様の現状や課題を把握されていると思います。鳥谷さんも私も、ある意味、同じ立場で、デジタルエンジニアリングを用いて製造業のさまざまな業務や現場をどう効率化し、インボルブしていくかを考えているわけですが、お客様の内部をいかに課題していくかが重要なポイントだと思います。今、日本の製造業ではさまざまな課題が積み上がっているのではないかと思いますが、そのあたりの鳥谷さんのご理解や認識について、少しお話しいただけますか。

鳥谷現在の製造業が抱えている課題について、3つの観点からお話ししたいと思います。第1に、これまで日本の製造業はQCD(品質、コスト、納期)の改善を得意とし、現場のカイゼンを通じて生産効率や品質を向上させてきました。ところが、今デジタル家電産業などを見ていると、そもそも「何を作るのか」とか「どんなサービスを提供するのか」ということのほうが、より、問われています。自動車のように競争力の高い産業もありますが、かつての自動車・電機という日本の産業における二大巨頭のうち、電機はかなり弱くなっているわけで、新しいビジネスモデルに加え、新しい製品として、何を作ったらいいのかが問われているのではないかということが、1番目のポイントです。

中村そうですね。

鳥谷2番目のポイントは、以前の円高から、アベノミクスで急速に円安基調に変わりました。この為替相場の大きな変動にどう対応していくかです。1番目の課題は「何を作るか」だったのですが、今度は「どこで作るのか」という新たな課題が生じています。実際、日本で作るのか、あるいは海外で作るのか、というところが問われていまして、製造業の最適配置と言いますか、生産地を臨機応変に移していくのがいいのか、それとも国内でじっくりやっていくのがいいのかという、役割分担がかなり重要になってきています。

中村はい。

鳥谷3番目はやはりグローバル化で、日本のマーケットは飽和状態にありますから、新興国で売れるもの、もしくは欧米で売れるものを作っていかなければいけません。そうなると、設計や生技(生産技術)あるいは生産部門に、いろいろな国の人が入ってくることになりますから、文化を超えて、日本のモノづくりを伝えることが大事になってきています。

中村まさしく、製造業を取り巻く環境は大きく変わっていて、グローバル化や製品戦略に加え、社内の体制をどう改革するかが喫緊の課題になっています。こうした状況の中で、日本の製造業が変化に対して十分に対応できているかと言えば、そうでもないという現状があるわけです。その辺りの背景や原因について、もう少し議論したいと思うのですが、鳥谷さんのご意見やお考え方についてお話しいただけますか。

鳥谷もともと日本人は「すり合わせ」のモノづくりが得意だと言われていました。今、その結果として残っている元気な産業と、元気ではない産業を見てみると、元気な産業は開発期間がある程度見込め、じっくりディスカッションしながら製品を作り上げていくようなやり方をしています。製品寿命も5年や10年、あるいはそれを上回るもので、かつ、カスタマイズ品主体、量生しても数万台程度のものが合っているのではないでしょうか。逆に、コンシューマー向けの最終製品として一気に投資を行い、何億台も作るようないわゆる「軽薄短小」の製品は、苦手になってきているのでしょう。昔、「軽薄短小の時代」と言われたこともありますが、これからは「重厚長大の時代」に戻ってくるのではないでしょうか。

中村なるほど。

鳥谷いずれにしても今、成功しているのは、製品を売るだけではなく、さまざまなサービスを組み込んでいるビジネスモデルが多いと思います。

中村最初にご指摘いただいた点については、PDCAや現場力が日本のモノづくりの強さだとした場合、それらで対応しうるビジネスモデルや商品、あるいは生産量といった形態の中で、カイゼンなどで高い競争力を維持していけるものについてのみと思います。ところが逆に、生産量が少ない場合や、生産期間が短い場合、また、「すり合わせ」なしで作れるものについては、日本の強さが生きないということですね。

鳥谷その通りです。

中村それからサービス面では、ソニー対アップルという比較に象徴されるように、日本企業がグローバルにサービスをなかなか展開できない理由や背景、課題などがよく指摘されますが、そのあたりについてはいかがですか?

鳥谷日本企業は地道な改善は得意でも、製品全体に関わるビジネスモデルを構築するとか、ソフトウェアを主体とするようなものは苦手だったのではないでしょうか。その一方で、コマツさんの「KOMTRAX」のように、数十万台の建機にGPSをつけた例もあります。最近IoT(モノのインターネット)のような技術も出てきていますが、ああいうものをどんどん工夫して採り入れれば、日本の産業はまだまだ勝てると思います。とくに数のシェアを持っている企業にとっては、それが大きな資産になってくるはずです。

中村私も、その点についてよく考えることがあるのです。そもそも日本人は新しいアプローチや挑戦が得意なのかという議論もありますが、こと製造業では、そういう活動がやりにくくなっている状況にあるのではないかと、私は感じています。

鳥谷なるほど。たとえば、どういう点でしょうか。

中村とくに、株主資本主義とは言わないまでも、「ROI(投下資本収益率)をどう上げるのか」というように、さまざまな立場で経営を考えていこうとするとき、直接コストと間接コストを仕分けていく中で、間接コストを抑える動きがどうしても起こります。何が直接で何が間接なのかという議論もありますが、たとえば生産技術が間接部門だと理解されてしまう状況があるわけです。以前は大手メーカには開発部、生産技術部、製造部がありましたが、今、生産技術部を持っている会社は少数で、生産技術部の解体にともない、多くの人が設計部もしくは製造部の生産技術課に移っていった経緯があります。

対談風景その3

鳥谷そうですね。製造業の競争力の源泉であった生産技術は大事にしたいところですが、現状はどうなのでしょうか。

中村いまや生産技術課は、生産技術や工法開発ではなく、設備の開発やインストレーション(据え付け)というオペレーションを手がける部署になっています。モノを作るための手法を開発するミッションが解体され、会社としての、作るという意味での強みを構築する部署がなくなってきているのです。

鳥谷そこまで退化しているのですね。

中村その意味で、間接部門に真の強みがある会社は数多くあります。ところがその強みも、ROIで見てしまうとなかなか評価されません。こうした経営環境の中で、製造部門で起きた問題を解決したり、新たに生産革新を行うための起点となる部署や人材、すなわち、モノづくりのノウハウが失われてきているわけです。

鳥谷表の競争力と裏の競争力と言いますが、裏の競争力の部分ですね。

中村はい。その部分で課題を抱えている企業が多くなってきていると思います。それから現在の状況では、製品体系の中で派生品などがいろいろ出てくるようになると、それぞれを製品化するための生産技術や製造におけるノウハウ、バリエーションも広範囲にわたりますから、個人の力や経験だけではとてもカバーできなくなってきます。昔は、自動車メーカのラインナップで言えば、たとえば「カローラ」を含めて数種類で済みましたが、今ではいろいろな派生品が出てきているので、個々の経験では各製品の生産技術や製造をカバーできない状況に陥っていると思われるのです。

鳥谷確かに、日本の生技のキーマンだったような人たちが、どんどん海外に行き、日本になかなかそういう人材がいないということが起こっています。その辺を、われわれのデジタルエンジにリングでカバーできるといいですね。

中村 そうですね。これまで上流も下流も、ある意味で設計も、属人的な能力で現場を回してきたと思います。ところが今、企業が対応すべき製品のバリエーションの幅や点数に加え、モノを作る場所も大きく変わっています。従来は、現場が見えている国内の工場で作っていたのに、今度はそれを海外の見ず知らずの工場でやらなければならなくなりました。しかも日本のスタッフが現地に行って見ているかというと、必ずしもそうではない。そのため、ますます生産現場が遠くなり、目が届きにくい存在になっていて、問題がボロボロ出てくるという状況ではないかと思います。そこで、デジタルツールをどう使っていくかが重要になります。日本のモノづくりの今後を考えると、今まで通りのやり方でいいというわけにはいかないでしょう。競争環境も、企業がやるべきことも変わっているので、それに合わせた体制や手法を構築していかなければなりません。

鳥谷その通りだと思います。製造業はどんどんグローバル化していますから、現地に合った製品を作っていく必要もありますし、それに応じた開発体制、情報共有の体制も構築しなければなりません。その面で「こんなはずではなかった」ということが、現場で起きているとよく聞きます。言語の問題もありますが、文化の問題がもっと大きく、「日本人だったらそこまで考えてやるだろう」ということが、まったくなされていないということもあるようですから、その部分をしっかり伝えていくことが必要ではないかと思います。

中村その点で、XVLは大きな効果を発揮する1つのプラットフォームになるのではないですか?

3次元データ活用による「見える化」と「見せる化」 対談風景その4

鳥谷まさに「百聞は一見に如かず」です。現場にしてみれば、言葉だけでなく図があるほうがわかりやすく、2次元の図よりも3次元のモデルがあるほうが、もっとわかりやすいですね。実際、XVLを使って3次元モデルを画面上で回転させたり、断面を見せたり、分解状態を見せることで、図が100枚あるのと同じ程度の情報量は出すことも可能でしょう。そういう意味で、圧倒的な情報量をお渡しすることができます。

中村「見える化」、「見せる化」が重要ですね。

鳥谷そうですね、まさに「見せる化」。時には「魅せる化」も必要です。

中村今「見える化」、「見せる化」と言ったのですが、いかに見てもらうかという点も重要です。超軽量の3D化技術があるだけではなく、それをどういうポイントやタイミングで、どのように見せるのかという運用が、1つの大きなエッセンスになると思います。

鳥谷それについて1つ申し上げると、XVLには作業手順、いわゆる組立工程のデータを入れ込むことができます。以前、組立工程つきの3次元モデルと組立工程のないCADモデルを、そのまま現場に渡したことがありました。あるお客さんで聞いた話では、CADデータをそのままXVLに変換して現場に渡したところ、現場から反応がほとんどありませんでした。お客様が期待したほどの効果は得られなかったのです。ところが現場の組立担当者が、作業手順を含む組立工程つきのXVLデータを作成したところ、「こういう組立はできない」「こんな作業手順では困る」という反応があり、情報に対するレスポンスが大きく変わったと言うのです。組立工程をきちんと伝えていくことで現場の方がデータを通じて、自分の問題を「見える化」できるようになったのです。設計レビューに加え、組立段階で起こる問題点をフロントローディングする意味で、非常に大事ではないかとおっしゃっていましたね。

中村そうですね。

鳥谷もう一点お話ししたいのが、ある造船会社の例です。同社では日本で設計を行い、フィリピンで船を造っています。フィリピンにいる9000人の従業員は、船を見たことはあっても巨大なタンカーやばら積み船は見たことがありません。船を造ったこともなく、製造業の文化もない現地で、どうやって船の造り方を教えるのかという問題が起きました。そのため組立手順を全部XVLに入れ込み、3次元のアニメーションで伝えていくことで、現地の人にもしっかり技術伝承をしていくことができたという話があります。

中村今お話しいただいた点は非常に示唆に富んでいます。使い手側にデータをそのまま渡しても、その「意味」は伝達ができないということだと思います。データを、相手のコンテクストに落とし込むことで、初めてデータが情報になるのです。単なるユーザ視点ではなく、ユーザのビヘイビアの中に落とし込むという意味で…。

鳥谷ユーザーが置かれた立場で必要となる情報を、ユーザーの立場で見せてあげなければ、伝えたいことが伝わらないということでしょう。

中村はい。今の鳥谷さんのお話でヒントになったのは、普通はデータの送り手側がコンテクストを組み立てていくのですが、逆にコンテクストベースで見ていくと、(送り手側の論理で組み立てられたデータは)ヒットしないということが初めてわかるということです。そこに意味があると思います。

鳥谷そうなんですよ、中村さん。1つ具体的な例を思い出しました。先ほどの造船会社の話ですが、船は鋼板を溶接して造っていくじゃないですか。ところがある工程を見ていくと、そこを溶接してしまったら、そこから作業員が出られなくなるという場所があったのです。それを彼らは「地獄」と呼んでいました。誰が「地獄」を設計したのかと。それは完成図だけを見ても気付きません。この手順でこうやって、こうやって造るよね、ということを3次元で見て初めて、「これでは作業員が出られない」ということがわかるのです。そういう視点で見て初めて、しっかり情報のフィードバックができて、コラボレーションが可能になるのだなと思いました。

中村「地獄」どころではないですね。墓場になってしまいます(笑)。

鳥谷(笑)。となると逆に、日本でモノづくりを行っても、そういう問題さえ起こらなければ、海外の安い人件費に勝てるという話もあるのです。もし「地獄」を日本で作ったら、その部分を取り外してもう1度作り直すのに大きな「手戻り」が発生します。ところが船の建造では数十万点の部品を扱うわけですから、絶対に手戻りが起こらない手順さえ構築すれば、中国や韓国にも負けないモノづくりが日本でもできる可能性があるのです。

中村 そのケースでは、作業者の立ち位置などのデータを書き込まなければいけません。XVLでもそういうことができるのですか?

鳥谷工場のモデルがあれば、作業者の立ち位置をコメントなどで明示できます。そこにヒューマンモデルを置けば、人体から今何が見えているのかということを検証していくこともできます。

中村立ち位置とか視点を、現場のユーザも見ることができるのですか。

鳥谷はい、見えます。両方が見えるようになっています。

中村素晴らしいですね。現場と、現場にエンジニアリング・チェーンの業務を出していく立場にある人の間に、コラボレーションがあることの意味は大きいですよね。

鳥谷当社には数学屋が多かったものですから、XVLは最初、いかにデータを軽くするかということだけに特化していました。ところが、ここ約10年の間に進化したのが、じつは後工程やサービスBOM(部品表)などを3次元形状と関連付けて表現する部分です。たとえばサービス時に扱う部品の単位と、設計で表現する製品の構造とは合致しません。サービスは補修部品というくくりで製品を見たいわけです。後工程で見ている人の視点は設計部門と違うので、彼らの視点で3次元の部品データを構造化してあげると、たとえばサービス部署の人が、補修部品という単位で形状確認することができるようになり、設計データとはまた違う形で現場に3次元データがどんどん展開されるようになります。これがこの10年間で起きた大きな進化です。

中村素晴らしいですね。われわれにも似た経験があります。工程設計の「見える化」と共有化が当社の1つのテーマで、日本と海外というユースケース(使用事例)は非常に有効です。以前、日本企業では、日本で製品の設計を行ってマザーラインを作り、それをチャイルド化あるいはブラザー化するという展開を海外で進めようとしていましたが、なかなか日本側の体制が整わなかったのです。もしくは「そこは海外にやらせろ」ということで、マザーラインなしで、いきなり海外に製造ラインを作らせてしまうことになってしまいます。具体的に言うと、設計を終えたあとの作業標準を設計部門が作ったうえで、海外の現地スタッフに工程設計をさせてしまうケースです。自動車業界では体制によって違いますが、電気・電子系は基本的に、工程設計は海外に丸投げですよね。

3次元モデルがコミュニケーションの「言語」になる 対談風景その5

鳥谷中村さん、実際に丸投げでうまくいくのでしょうか。

中村そうなると、日本流がうんぬんという前に、工程設計の経験がないか、もしくは工程設計におけるポリシや理念のない人たちが、「作れればいい」という観点で組んでしまうので、残念ながらいい工程設計にはなりません。当然ながら日本からスタッフが応援に行くわけですが、日本人が指導した瞬間にはよくなっても、日本人がふたたび現地に行くと、また間違いをやっている。いくら指導しても「もぐら叩き」の状態になり、教えたこととは違うことをやっているのです。それは現地スタッフの能力の問題というよりも、文化に依存している部分があると思います。基本的に、あるモノづくりのコンセプトや考え方を習得することより、まずは「この仕事が量産までいけばいい」という、ある意味で非常に合理主義的な行動になりがちなのです。

鳥谷確かに仕事に追われている現場では、まず、目の前の仕事をすぐに片付けようとするのが普通ですね。

中村そうなると「前の指導を受けて、こうしよう」ではなく「今の状況でこうすればいい」というように、非常に場当たり的な活動になりがちです。基本的かつ重要なコンセプトを捨てている形になってしまっているので、結果的には良いモノづくりはできません。そこでまた日本人が現地に行って指導しても、結局は「もぐら叩き」になり、手戻りが続出して量産体制がうまく構築できないケースが、かなりあるのです。

鳥谷そういう中で、御社の技術はどう利用されているのですか?

中村海外のスタッフで工程を組み立てるとき、エクセルや紙ベースではなく、われわれの工程設計シミュレーションソフトである「GD.findi」を使ってもらうのです。

鳥谷なるほど、そこでネットを介して工程情報を共有するのですね。

中村クラウドで動くので、現地で何をやっているかがわかるのです。

鳥谷日本側でチェックができるということですか。

中村リモートでチェックすることができます。これもデジタルエンジニアリングの1つのポイントだと思うのですが、「GD.findi」は生産シミュレーションの技術ですから、組み立てた工程をバーチャルで動かすことができるのです。仮想ではありますが、計算機上で実際に生産を行ってしまう。そうすると、たとえば工程をこう組むとリードタイムがこうなるとか、こちらのNC工作機械の稼働率が落ちる。あるいは、ロボットを導入してもほとんど稼働していないとか、このあたりにボトルネックが生じて工程間滞留が増え、ストックヤードが一杯になってしまう、ということが計画段階でわかるのです。日本人が指導する前に、そういうことを、現地の人たちに自分で気付かせることができます。

鳥谷そこは大事ですね。現地スタッフが成長していかなければ企業の真の力になりませんから。

中村ただ、問題があったとしても、実際にどう対応するかはそれぞれの企業のポリシによりますから、「こうすればいい」という指示まではできません。「基本的に、この製品はこういうふうに流すんだ」というコンセプトについては、やはり日本側が指導していかなければいけないのです。たとえばリモートもしくは今までの事例を見るなどの形で。日本側の「先生」がリモートで入ってきて、現地スタッフと対話する中で、自然言語をインターフェイスにするのではなく、バーチャルモデルを1つの言葉として会話ができます。

鳥谷実際に工場の門をくぐらなくても、バーチャルの中でお互いに理解でき、コミュニケーションが成立するということですね。

中村自然言語が唯一の言葉ではなく、デジタルツールで描かれたバーチャルモデルも言葉であると、私は考えています。

鳥谷コミュニケーションの手段になっているのですね。そこはXVLも同じです。

中村はい。自然言語では言葉の解釈が非常に難しく、お互いに違った解釈をしてしまいがちです。わかったような気になって、本質部分では違ったことを言っていることがある。そのため、現地に行ってみたら、こちらの指示とは全然違うことをやっているということが少なくありません。自分が話していることの意図を正しく伝えるうえでも、デジタルツールを言葉として、相互理解を促すことは重要です。

鳥谷グローバル化時代にデジタルエンジニアリングがどう貢献しているのかという意味で、非常に良い事例だと思いますね。

中村製造プロセスもしくは製品の視点で、考え方を共有することが大事ですね。

鳥谷そういうことですね。私もそういう経験が、お客様の事例でいくつかあります。その中で2つだけお話ししますと、1つは、あるメーカで工程の検証をしているところを見せていただいたことがあるのです。タイに工場を造るための検討を行っていて、そこにはタイ人がたくさんいました。通訳と日本人もいて、XVLで作成した3次元モデルを見ながら「この工程でモノが作れるのか」とか「これで本当にいいのか」ということを、タイ人が自分で判断し、問題があったら日本人のスタッフに「これでいいのか」と聞いているのです。そこには、タイの次に工場を造る中国のスタッフもいましたが、日本、タイ、中国の3カ国の人たちが同じ3次元モデルを共有しながらコミュニケーションを進めているのを見て、デジタルエンジニアリングツールがグローバルなモノづくりに貢献していることを感じました。これは「すり合わせ」型のものづくりのケースです。

中村もう1つはどんなことですか?

鳥谷デジタル家電系では製品を何百万個と作るので、工場を垂直立ち上げしなければなりません。ベースとなる標準工程は通常、日本で作ります。それをベースに新興国に工場を建てていくにあたり、その作業工程を伝えていかなければなりません。われわれのXVLの3次元モデルには標準作業を定義する機能があります。そのお客様では、定義された作業ライブブラリを利用して標準工程を構築していきました。しかも、その標準ライブラリをマルチ言語で定義できるので、工程ができた瞬間に中国語の工程表もタイ語の工程表も完成している、という状態が実現するわけです。そういう形で一気に量産立ち上げをしていくと、3次元モデルを利用して組立工程を再現できるので、従業員の教育にも活用できるわけです。

中村モノづくりにおける1つの重要な考え方だと思いますね。XVLはデジタルエンジニアリングツールとしても魅力的ですが、設計で言うとモジュラー化、もしくは製造プロセスにおける何らかの標準化、体系化を進めるうえでも非常に有効です。とくに量産系のケースでは、そういうやり方が重要になる場合が多いのですが、その一方で、きちんと体系化して仕上げていけるかが大事だということですよね。

鳥谷そうですね。モジュラー化は製造業の抱えるこれからの重要な課題の一つです。

中村これは、非常に難しい部分ではないかと思うのです。どうでしょう、実際にきちんとできている会社は少ないのではないでしょうか。モジュラー設計と言っている会社は、私も色々と知ってはいますけれど…。

鳥谷モジュラー設計と言っている会社はたくさんありますが、成功しているところは確かに少なく、フォルクスワーゲンなど海外のほうが先行しているイメージがあります。これは正しいかどうかわかりませんが、私が個人的に思うことは、何千、何万という部品を用いて、モジュラリティを持った製品構造に構築するのは、超天才にしかできないのではないかということです。日本は、どちらかというとボトムアップ的にモノづくりを進めていく傾向がありますから、ある天才がトップダウン的にモジュールを構築するというケースは、実は非常に稀なのではないでしょうか。

中村なるほど。

鳥谷今、パートナである図研さんと「visual BOM」という、BOMのビジュアル化を図る製品を一緒に作っています。このソフトには当社で開発した類似形状検索機能が搭載されています。製品に使われている複数の製品について、どの部品が共通なのか、ある部品には以前にもこんな類似形状の部品を作っている、ということを「見える化」できるようになっています。それを見ながら「こんな部品はいらない」とか「新規設計する必要はない」ということがわかれば、ボトムアップ的にモジュラリティを徐々に向上させていくことが可能です。このようにデジタルエンジニアリングツールが発達すれば、超天才ではなくても、少し賢いエンジニアなら、モジュラー設計がある程度はできるというやり方もあるのではないかと思います。

中村結果的には標準化ですよね。部品と言うより、あるモジュラークラスもしくはサブアッセンレベルの話だと思いますが、おっしゃるように形状の類似度を増していけば、ひょっとしたら、この部品とこの部品は標準化できるのではないかということになりますね。

鳥谷そうです。そのようにして、ボトムアップ的にモジュラリティを上げていこうというアプローチを今、図研さんは進めようとしています。

中村設計においては、日本はまだそのあたりを不得意としていて、自動車メーカなどでも「そういうモジュラー設計は、はたしてできるのか」と言っています。それから鳥谷さんが先ほどおっしゃった製造の点についても、私は興味があるのですが、生産プロセスの標準化に向けた試みが、最近少しずつ動いていると思うんですね。

鳥谷どういう標準化でしょうか。

中村製品ではなく、生産プロセスの標準化もしくはモジュール化。「すり合わせ」型ではなく、量産型に代表されるようにトップダウンでどんどん落とし込んでいくモノづくりの中では、工程そのもののモジュール化もあり得ると思います。日本のモノづくりはとくに、工程設計もしくはそれ以降の領域において優位性や知見を持っています。設計の方に申し上げるのは非常に恐縮なのですが、設計分野で日本のモノづくりは劣るとは言わないまでも、むしろ生産側に強みがあると考えざるを得ないのです。また先ほど鳥谷さんもおっしゃったように、天才はいないとしても、製品を作り込む力はあるわけです。これをもっと活かすことができるといいのではないかと思うんですね。

鳥谷なるほど工程そのもののモジュール化ですね。

中村ところが今、製品を作り込む力が企業の中でどう活かされているかと言うと、個別個別の対応でしかありません。現場でPDCAを回すのは重要なことであり、それでしか実現できないこともありますが、個別個別の活動でやっている限りにおいて、その効果はリニア(線形)であって非線形ではありません。(説明変数と被説明変数との関係を)非線形にすることが価値につながるというような理屈っぽいな言い方はしたくありませんが、そういう力をいかに活用するかがポイントではないかと思うのです。

鳥谷1人のノウハウを普遍的なものにするということですね。知識を共有するという話につながってくるのでしょうか。

中村そういう方向を模索していかざるを得ないと思います。

バーチャルとリアルの世界を統合 対談風景その6

中村ここまで、デジタルエンジニアリングのお話をさせていただきましたが、当然ながらデジタルエンジニアリングですべてのことができるわけではありません。人間の持っている力をどう組み込んでいくかということも大切だということが、2番目の話題になると思います。

鳥谷そうですね。デジタルエンジニアリングの結果を判断し、どう生かすかはあくまで人間です。

中村デジタルエンジニアリングでできていることは当然限られているわけで、デジタルエンジニアリングで現状できていないこと、さらにこれからやるべきことを、われわれとしては考えていかなければなりません。そのあたりについて、鳥谷さんの技術だけに限らず、いわゆる「製造IT」が置かれている現状と課題に加え、今後進むべき方向性についてお話しできればと思います。

鳥谷手前味噌になりますが、われわれの取り組んでいる超大容量の3次元データに関しては、じつはまだ解決されていない問題が数多くあるのではないでしょうか。まず、第一に超大容量データを利用した先進技術を三つ紹介したいと思います。一番目は部品間の干渉計算です。干渉についてCADで見るというレベルでは、みなさんが干渉計算を行っていると思いますが、大規模アセンブリ上での干渉計算は、じつはあまり行われていません。CADでは計算に時間がかかったり、大規模モデルが扱えないということで、なかなか行われていないのが実態です。ところがXVLの技術を使うと、超大容量の3次元データの処理も可能になるので、そういう強みをいろいろな場面で活かしています。二番目が制御ソフトの3Dモデルを利用したデバッグです。製造部門では、PLC(Programmable Logic Controller)を利用して製造装置を制御していますが、この制御を、装置の実機がなくてもXVLのモデルの中でシミュレーションできる「VMech(ブイメック)」というソフトを開発しました。従来は、製品の量産立ち上げをする際、制御ソフトがないためにラインの立ち上げができないというように、制御ソフト開発が生産のボトルネックになるケースがあったのですが、そういうことが可能になると、ラインの設備ができる前に制御ソフトのプログラムデバッグに着手できます。このような流れで、ラインができたら設備がそのまま動くというようなモノづくりをしたい、というお客様が結構いらっしゃいますね。

中村なるほどね。

鳥谷先ほど中村さんがおっしゃったように、日本企業では生技の力が強く、製品を世界中で生産していても、設備は全部日本で作っていることが少なくありません。今後そういうケースにシミュレーションが有効になってきます。加えて、世界中にその設備が設置されるとなると、そのメンテナンスをバーチャルで行う機能も非常に有効になります。まさにデジタルエンジニアリングの出番ですね。

中村そうですね。

鳥谷三番目はエレキのモデルとメカのモデルを合体し、メカ・エレキのハイブリッド検証を行うというものです。そうすると、エレキのモデルのほうから導体か絶縁体か、電位差はどの位あるかなどのエレキ属性が全部来ますので、解析をかけると「この辺でショートする」とか「この辺で静電気が起こる」ということが、デジタルモデル上で計算できるようになります。その結果、実物ができた後に実験しなければならない事柄が大きく減り、非常に迅速な製品開発が可能になります。

中村そうなんですか。

鳥谷実際に図研さんと開発した「XVL Studio Z」を展開してみると、いろいろ面白いことがありました。一般的には、メカ設計者とエレキ設計者が別々の部門で仕事をしています。ところが社内に組織のカベがあり、コミュニケーションがうまく取れていないことが結構あるのです。そのため、メカ設計者が開けた穴が原因で、回路がショートする可能性が生じる、というような問題が起きていました。通常は、メカ設計は終わっているので、後はエレキ側で解決してくれとなるのですが、「XVL Studio Z」で、電気の流れる道がメカ設計者にも見えるようになったお陰で、双方の組織がコラボレーションできるようになったのです。

中村なるほどね。

鳥谷そういう異分野のデータを統合し、よりサイズが大きくなった大規模データに対して、さまざまな検証を行っていくということが重要になっています。今後日本の製造業では、エレキ、メカ、ソフトウェアの部門が連携して動くようになっていくでしょうから、そこでデジタル検証の役割がますます大きくなっていくでしょう。

中村PLCの制御シミュレータと、ハードウェアのシミュレーションソフトが、まだつながってないということですよね。

鳥谷そうなんです。

中村別々ですよね。制御される対象の機器は連続時間で動作するわけですが、離散系、連続系が統合された検証技術はまだ確立されていないですよね。仮想で動くバーチャル製造機、もしくはスマートマシンのような話になりますが、その技術自体がまだできていないという状況だと思います。

鳥谷次に、第二のポイントは、バーチャルとリアルの統合が必要になってきているのではないか、ということです。これには2つやり方があって、1つはバーチャルにリアルを取り込み、もう1つはリアルにバーチャルを取り込むわけです。レーザー計測機で空間を3次元スキャンして点群(3次元座標を表す多数の点の集合)化すれば、現地現物の3次元形状データを、バーチャルであるXVLに取り込むことが可能です。昨年、現物を測定した大容量の点群データを軽快に処理できる「XVL InfiPoints」という製品を、パートナのエリジオンさんと共同開発しましたが、工場のような数十億点規模の点群にXVLの大規模モデルを統合し、さまざまな検証が行えるようになりました。

中村すごいですね。

鳥谷それを、どんな場面で使うかなのですが、たとえば今、原発が止まっていて電力が足りないので、工場に自家発電の装置を入れたいというケースが考えられます。ところが工場の中には、階段はもちろん、さまざまな設備が所狭しと並んでいるにもかかわらず、正確な図面がありません。そこで工場の構内をレーザー計測し、装置は本当に入るのか、搬入の際に階段は邪魔にならないのか、どういう手順で設置したら効率的なのかということを、デジタルモデルで検証できるようにしたのです。調べてみたら、いろいろと適用範囲がありまして、工場も同様ですが、社会インフラなどのように長期間にわたって使う施設で、その中身の設備を効率化していく必要のあるケースなどに、非常に出番がありそうなのです。

中村なるほど。

鳥谷もう1つの例をあげましょう。ある造船会社の方から聞いたのですが、船は積み荷が空のときなどにバランスを崩すので、バラスト水と呼ばれる海水を船内に入れてバランスを保っているそうです。ところが、たとえばタンカーを例に挙げれば、船が別の海域に移動して石油を積む際、バラスト水を捨てるのですが、それが原因で生態系が破壊されるという問題が起こっています。そのため、バラスト水中の水生生物を一定基準以下にして排水することが求められていて、古い船にはバラスト水処理装置を設置しなければならなくなりました。そこで船内の空間を3次元スキャンして点群化し、バラスト水処理装置をどうやって搬入するのかをシミュレーションするなど、いろいろな出番があると思っています。

中村バーチャルをリアルに取り込むほうは、どうなっているのですか?

鳥谷こちらはキヤノンITソリューションさんと一緒にやっているのですが、MR(Mixed Reality)システム「MREAL(エムリアル)」という製品があります。MRとは現実世界と仮想世界を融合させる映像技術で、バーチャルモデルのCG映像を現実の映像と合成し、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)に表示させるのです。たとえば車の3次元モデルのCG映像と実車の映像を合成し、網の目のように張り巡らされたエレキの配線の3Dモデルが、現実の車の中にすけて見えるということも可能になるわけですよね。

中村そうなんですか。

鳥谷実際に(配線の)作業を行う場所に手が届くのか、どうすれば作業ができるのか、作業の際にこういう場所で腰が曲がって苦しくないのか、というところを本物の人間が仮想モデルの中で体験できてしまいます。

中村今、工場や造船の例についてお話いただきましたが、実は正しいデータが案外なかったりするのですよね。

鳥谷ああ、そうなんです。

中村とくに工場などがそうですよね。

鳥谷カイゼン、カイゼンで、どんどんレイアウトが変わってしまいますから。

中村ですから、お客様の工場に行って「工場図面はありませんか」と聞くと、「ありません」と言われてしまうのです。それも、設備屋さんが勝手にレイアウトを変えてしまっている、などの理由で。

鳥谷でも逆に、日本の現場力を活かし、カイゼン、カイゼンでそうなっている部分もありますからね。

中村はい。そういう運用をせざるを得ないのです。現場力やカイゼンが日本の力だとしても、(その結果生まれた工場のレイアウトに関する)データは消失してしまうという状況ですから、その点ではレーザー計測と3次元技術を活かすことで

、キャッチアップが可能だということですね。

鳥谷まさにそういうことですね。

中村そういう新しいやり方をすれば、現合(げんごう)合わせではなく、3次元データを活用し、あらかじめ予測を立てながらPDCAを回していくこともできます。外から見ると、デジタルで何でもできるように思えるのですが、実際にはまだできていないことが数多くある、ということですね。

鳥谷技術的には可能であっても、現場に定着させていくのは本当に大変です。

中村それを1つひとつ追っていかなければならないということだと思います。先ほど3次元データの活用についてお話をいただきましたが、業務プロセスという観点でそういう技術を有効に使っていく必要があるのはもちろん、エンジニアリングもしくは製造ITについて、まだできてないことがたくさんあると私は思います。

鳥谷なるほど。業務プロセスという観点というところをもう少し説明してもらえませんか。

エンジニアリング・チェーンとサプライ・チェーンの連携 対談風景その7

中村おそらく鳥谷さんもそうだろうと思いますが、エンジニアリング・チェーンを、上流から下流までいかにデジタルデータで一気通貫させていくかということが、われわれの1つの大きなポリシでありコンセプトです。鳥谷さんと私が少し違うのは、鳥谷さんのところが製品軸での一気通貫であるのに対し、当社がプロセス軸での一気通貫であることで、両方の軸が並行して動いているというイメージです。もう1つ、私の立ち位置としてはエンジニアリング・チェーンなのですが、生産、製造においてさまざまな情報が連携していく中で、サプライ・チェーンの視点はどうなのかということも考えていかなければいけません。エンジニアリング・チェーンありきでもなく、サプライ・チェーンありきでもなく、どちらも重要で、それぞれが持っている情報に有効性が当然あるわけです。それらがいかに連携するかが大切であると思います。先ほど鳥谷さんがおっしゃった制御の領域、物理の領域と電気の領域を連携させることと同様に、サプライ・チェーンとエンジニアリング・チェーンをどうやって同期させていくのか。これは、ある意味で予定調和的な活動になっていく必要があると思いますが、そういう点でXVLの技術や、われわれが推進しているシミュレーション技術を活かしていけたらいいですね。

鳥谷そうですね。XVLの技術でいえば、図研さんとやっている「visual BOM」が二つのチェーンの結節点に当たります。中村さんのお話のポイントは、もっと上流での検討が大事なるということでしょうか。

中村最初に鳥谷さんもおっしゃいましたが、何をどこでどう作るのかという製品コンセプトや原価モデルなどが明確になってから、設計を起こし、量産プロセスに入っていくという流れがあるわけです。そういう上流の段階から、後工程で連携してくるサプライ・チェーン情報も、やはり上流の段階で、程度の議論はありますが、組み込んでおかないと。

鳥谷なるほど。

中村エンジニアリング・チェーンだけで考えたときのプランの過不足を検証しながら、サプライ・チェーンの視点で製品を作り込んでいく、という流れが必要です。その意味で、今までは、サプライ・チェーンとエンジニアリング・チェーンが別々に動いてきた中で、量産段階で双方の視点を調整しながら量産に入っていくというのが、日本企業におけるすり合わせの1つの側面でもありました。私は、仮にすり合わせが必要だとしても、量産に入る手前ではなく、もっと早い時点ですり合わせを行うべきだと思います。現場の方には申し訳ないのですが、量産直前のすり合わせは、いわば手戻りであり、そこでカイゼンが起きている以上、カイゼンはある意味で手戻りだと言っているのです。たしかにカイゼンは重要で、やらなければならないことですが、手戻りなのですから、本来はやらなくてもいいことで、やってはいけないことなのです。理想的には、一発OKが1番いいわけです。

鳥谷それは当然ですね。

中村一発OKができないからやっているだけなので、必要悪だと言ってもいいかもしれません。ただ、問題が出るのは事前にわかっているのだから、量産直前ではなく、あらかじめ事前にすり合わせて作り込んでいく必要があると思うんです。

鳥谷なるほど、フロントローディングで、事前に問題をつぶすということですね。

中村そこのギャップが非常に大きいですね。その点をふまえて、サプライ・チェーンとエンジニアリング・チェーンを早い段階で検証するには、広い意味でのシミュレーションが必要です。われわれは生産の観点で話していますが、生産シミュレーション技術を用い、エンジニアリング・チェーンの上流、もしくはサプライ・チェーンの上流と言ってもいいのですが、その時点でシミュレーションをかけて、どこで問題が出るのかを早い段階でチェックし、コンバージェンス(収束)させるのです。そういうアプローチが、これから製造に求められるようになってくると思っています。デジタルエンジニアリングがまだ下流にまで十分に通じていないという現状がある中で、どんなタイミングでそういうアプローチが有効になるのかはわかりませんが、そういう大きな流れは間違いなくあります。

鳥谷下流にとってデジタルエンジニアリングが重要な意味を持つためにも大事な点ですね。

中村そういう観点で、エンジニアリング・チェーンとサプライ・チェーンという、視点が異なる動きの連携を促進することが、デジタルエンジニアリングツールの大きな役割。それによって全体的な業務プロセスが変わっていくという意味でも、非常に重要なアプローチだと思っています。

鳥谷なかなか高尚なお話ですね。われわれはもう少し、分かりやすいところを手がけています。たとえば、全自動でパーツカタログを制作できる「CATALOGCreator」というソフトを、われわれのパートナが作っています。パーツカタログに必要な情報は、部品の分解図とその部品に対応するパーツ番号、そのパーツに対する問い合わせ先などで、それらが表になっていればいいわけです。3次元の形状データは設計が作るわけですが、各部品のサービス情報はサービス部門などが持っているわけで、それらの情報構造は当然、設計部門が作ったエンジニアリングBOMのデータ構造とは異なります。ただ、共通のパーツのIDを持っているので、自動的にデータの関連付けが可能です。そういうやり方でサービス側の情報と、上流の設計情報を組み合わせて、2次元画像も3次元モデルも表示可能なパーツカタログを全自動で作成できる仕組みを整えました。これは今、非常に好調に引き合いをいただいています。

中村そうなんですか。

対談風景その8

鳥谷これはドイツのTIDというパートナが開発したのですが、かなり大胆な発想に基づいていて、「設計変更が起こったらどうするんだ」と尋ねたら「何も考える必要はない」と彼らは言うのです。設計変更が起こったら全部自動で作り直せばいい、あとはチェックするだけ。そこでOKだったらグローバルに配信する、という発想です。

中村修正ではなくリビルドをかけよう、その波及はどこにあるかは気にしなくていい、ということですね。

鳥谷そういう考え方です。たしかに今、カスタマイズ製品が多くなっていて、そうすると、お客様ごとにパーツカタログも異なります。そういうときに「CATALOGCreator」のようなソフトがあると、個別のお客様に合った汎用製品のパーツカタログを自動的に作成できますから、非常に安い運用コストで高いレベルのサービス構築が可能です。

次回に続く

取材・構成 ジャーナリスト加賀谷貢樹

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